中東かわら版

№146 イラン:ロシア、トルコとシリア紛争に関する三者会談を実施

 12月20日、モスクワにおいてイラン、ロシア、トルコの3カ国の外相による三者会談が開かれ、シリア紛争の平和的解決を呼びかける共同声明が発出された。共同声明は8項目からなり、①シリアの主権や領土的一体性を尊重する、②国連安保理決議2254号に沿った危機の平和的な解決を求める、③アレッポ東部などでの市民の自発的避難、武装勢力の組織的撤退を許す努力を歓迎する、④三カ国はシリア政府と反体制派との将来の合意の保証人になる用意があることなどが謳われた。

 また、同日、イランのシャムハーニー国家安全保障最高評議会(SNSC)書記は、「イランとロシアはシリアで司令部を共有している。ロシアの助力により、イランはシリア国軍と抵抗勢力(注:ヒズブッラーなどシリア政府側の武装勢力を指す)に助言を行っている」と述べた。

評価

 シリア紛争においてアサド政権の支援を継続していたイランは、ロシア空軍機に自国内のハマダーン空軍基地の使用を一時的に許可するなど(詳細は「イラン:ロシア空軍機がイラン領内の基地から発進してシリアを空爆」『中東かわら版』No.81(2016年8月17日)、軍事面でのロシアとの協力を深めてきていた。今回のシャムハーニーの発言は、現地の戦場レベルにおいてもロシアとの共同歩調がとられていたことを裏付けるものであり、イランとロシアの対シリア戦略がかなり近しいものであることが推測できる。もっとも、シャムハーニーはロシア空軍機によるイラン領空の通過については認めたものの、当時国内から反発を受けたイラン基地の使用については言及せず、両国の軍事関係の拡大には障害が残されたままであることも示唆している。

 このような状況下において、これまで湾岸諸国とともに反体制派支援を継続していたトルコが、イラン、ロシアとの協調に舵を切ったことは、地域のバランスを大きく変化させるものである。イラン、トルコともに国防相をモスクワに派遣しており、外交面のみならず軍事面においても三者の協調が進んでいく可能性は高い。12月13日に「International Crisis Group」が出した報告書において、トルコとイランが2013年から断続的にシリア問題について協議を重ねてきていたこと、アサド大統領の去就を巡って両者が合意に至れなかったことが明らかにされたが、トルコはこうした問題に明確な結論を出さないままでも、イランとの協力を進めていくことに積極的な価値を見出しているようである。イランにとっては、2016年初頭のサウジアラビアとの断交をきっかけにアラブ諸国との関係構築が阻害されているため、トルコとの協力拡大が地域外交の突破口となることを期待しているだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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