中東かわら版

№145 イスラーム過激派:ベルリンでの轢殺事件

 20161220日(日本時間)、ドイツのベルリンのクリスマス市にトラックが突っ込み、12名が死亡した。この事件について、「イスラーム国」の自称通信社「アアマーク」が、「作戦の実行者は「イスラーム国」の兵士である」との記事を発表した。記事の書き振りでは、実行犯は1名である。また、記事は下の画像の通り、「アアマーク」がこの種の事件の際に発信する記事の定型通りである。

画像:事件についての「アアマーク」の記事

評価

 記事自体は通常の形式に沿ったものであり、特段のメッセージ性も新味もない。また、この記事だけでは「イスラーム国」が事件にどの程度関与しているのかもうかがい知ることができない。実行犯の人定情報やメッセージについては、今後「アアマーク」が動画を発表する、「イスラーム国」の週刊誌などの媒体で詳報記事を掲載するなどの方法で明らかになる場合もある。その一方で、今後追加の情報が発信されない場合、事件への「イスラーム国」の関与の程度は高くないと判断できるだろう。

 事件を受け、ドイツにおいては難民の多数受入れの結果、「イスラーム国」の工作員や支持者が流入して治安が悪化したとの趣旨の政府批判が出ている模様である。しかしながら、ドイツは20164月の時点で720760人を「イスラーム国」へ送り出したと推定されており、EU諸国の中での人員の送り出し数では上位の国である。2015年、2016年に「イスラーム国」による襲撃事件が発生したフランスも多数の送り出しの実績があり、ベルギーについても人口100万人あたりの送り出し数はEU諸国としては突出して多い国である。つまり、近年のEU諸国、ひいては世界各地での「イスラーム国」による攻撃との因果関係が強いのは、「紛争地から移民・難民を受け入れた数」ではなく、「2011年以降に「イスラーム国」などに送り出した人員の数」なのである。従って、「イスラーム国」対策という観点からは、移民・難民の受入れ政策に過度に焦点を当てることは、本来対策を講じるべき問題である「EU諸国には移民・難民の殺到以前から「イスラーム国」などの組織が予想以上に浸透している」という事実を覆い隠してしまうこととなろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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