中東かわら版

№81 イラン:ロシア空軍機がイラン領内の基地から発進してシリアを空爆

 8月16日、ロシア国防省は、イラン北西部に位置するハマダーン基地からロシア空軍機のTu-22M3長距離爆撃機とSu-34戦術爆撃機が発進し、アレッポ、デリゾール、イドリブの「イスラーム国」およびヌスラ戦線の弾薬庫や指揮所を空爆したと発表した。また、同国防省の発表によると、シリアのフマイミム空軍基地からSu-30SM戦闘機およびSu-35S戦闘機が発進し、長距離爆撃機を護衛した。

 16日、イランのシャムハーニー国家安全保障最高評議会書記は、シリアにおける対テロリズム戦争においてイランとロシアは戦略的な協力関係にあり、施設を共有していると述べた。また、17日には、議会においてイラン憲法は平和目的であっても外国軍基地の設置を禁じているとの質問が出たことに対し、ラーリージャーニー国会議長が、ロシアに軍事基地を譲り渡したわけではないことを強調した。

  

評価

 ロシアがイランの基地を利用してシリアを空爆したのは、今回が初めてのことである。従来、ロシアの長距離爆撃機はロシア連邦内の北オセチア共和国のモズドクから発進していたと見られているが、イランの基地の利用が可能になれば、飛行距離の短縮、爆弾の搭載量の増加が見込めることになる。他方、ロシアは既にシリア領内のフマイミム空軍基地を使用しており、シリア北部の軍事情勢においてイラン基地の使用にどれだけ戦況の変化をもたらす効果があるかについては、不透明である。

 他方、イランがロシアに空軍基地の使用を許可したことは、イラン・ロシア関係の文脈からは大きな変化といえる。イランはS-300ミサイルシステムの導入を進めるなど従来からロシアと緊密な軍事協力関係を構築してきたが、一時的とはいえロシア軍機の駐留を認めることはこれまでとは異なる次元のデリケートな問題といえよう。国会での質問は形式的なものに過ぎないかもしれないが、かつてロシアは英国とともにイランを占領した歴史があり、仮にロシア軍機の駐留が長期化するようであれば、イラン国内でもロシアへの反発が高まる可能性もある。

 イラン政府としては、6月にシャムハーニー書記をシリア、ロシアとの政治・軍事・安全保障問題調整官に任命しており、シリア紛争においてロシアとの関係を強化していく方針が確認されていた。今回の一件から、シリア紛争において軍事的に優勢な局面を作り出すことで両者は強く一致していることが窺えよう。

(研究員 村上 拓哉)

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