中東かわら版

№49 バハレーン:ウィファークに解散処分

 6月14日、裁判所は、司法・イスラーム・寄進省によるバハレーン最大の政治団体(シーア派)であるウィファークの解散要求に対し、これを認める決定を下した。同決定により、ウィファークは本部の閉鎖、資産の凍結を直ちに適用されることになり、解散の実質的な内容が決定されるまで活動停止処分が課せられる。

 司法省は公式の発表において、「過激主義を採用し、憲法および法律から外れるような組織は非合法」であり、「このような組織の存在や活動の継続は公共の秩序に反する」との観点から、ウィファークの解散を要求したと述べた。さらに、裁判所の決定は、ウィファークが「テロリズム、過激主義、暴力のための環境を醸成」し、「国内の問題について外国の介入を呼びかける」ような行為を続けてきたことによるものであると主張した。

  

評価

 ウィファークは、その勢力の大きさから反政府系シーア派組織の筆頭として注目を集めてきたものの、その活動は他の反政府団体と比較すると穏健なものであった。ハックやワファーといったウィファークから分派したより強硬な政治団体(非合法)は、2011年の「アラブの春」に関連して起きた抗議運動に際し、体制転換による共和制への移行を主張するなど政府側と激しく対立していたが、ウィファークは体制内での改革を要求し政府との対話を主張していた。2011年4月には同じく司法省がウィファークの解散を要求しているという報道が出たものの、ハーリド外相はウィファークに将来のパートナーとなることを期待していると述べ、解散要求を否定したという経緯もある。2016年4月には、政府はテロ組織に指定した68団体のリストを公表したが、そこにはヒズブッラーやアル=カーイダ、「イスラーム国」といった国外の組織に加えて、アシュタル旅団、人民抵抗旅団、2月14日革命若者連合といったバハレーンの国内組織もテロ組織に列せられていたが、ウィファークはこれらの組織とは別扱いとなっていたことも留意しておくべきであろう。

 他方、近年になり、政府はウィファークを含めた穏健な反政府団体や人権活動家に対する締め付けを厳しくしている。政府はウィファークに対して一時的な活動停止処分を何度も課し、指導者や幹部を拘束していったほか、先月末には指導者のアリー・サルマーンに対して懲役9年の判決が下されている(同判決については「バハレーン:控訴審でウィファーク指導者に懲役9年の判決」『中東かわら版』No.37(2016年5月31日)を参照)。さらに、先週には人権活動家のザイナブ・ハワージャ(バハレーン人権センター(BCHR)創設者アブドゥルハーディー・ハワージャの娘)が当局による拘束の危険を感じたことからデンマークに脱出し、13日には著名な人権活動家で現BCHR所長のナビール・ラジャブが拘束されている。

 米国務省はウィファークの解散に関して懸念を表明し、バハレーン政府に解散の決定を再考するよう要請している。他方、欧米諸国によるこうした批判は、実質的な措置を伴わない限り、バハレーン政府に影響を与えることはないだろう。先のウィファーク指導者への判決が下された際にはハモンド英外相がバハレーン訪問中であったが、形式的な懸念を表明するに留まっている。欧米諸国が人権問題で及び腰になることは、バハレーン政府内でタカ派が台頭することを促しており、こうした傾向が今後も継続していくことを示唆させる。

 しかしながら、明確な証拠もないまま、「テロリズム、過激主義、暴力のための環境を醸成」したという曖昧な理由により国内最大の政治団体を政治の場から排除しようとする試みは、むしろバハレーン国内の社会的亀裂をさらに深刻化させる危険がある。ウィファーク全体としては解散処分後も政治的解決の試みを継続していくとしても、希望を失った一部のメンバーが本流から分離して過激化していく恐れが高まるといえよう。

(研究員 村上 拓哉)

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