中東かわら版

№37 バハレーン:控訴審でウィファーク指導者に懲役9年の判決

 5月30日、控訴裁判所は、国内最大の政治団体であるウィファークの指導者、アリー・サルマーンに、扇動、法律の不遵守の呼びかけ、検察への中傷の罪に加え、暴力的手段による体制転換の試みについても有罪とし、懲役9年の判決を下した。2015年6月に下された一審の判決では、暴力的手段による体制転換の容疑については棄却され、懲役4年が宣告されていた(一審については「バハレーン:ウィファーク指導者に懲役4年の判決」『中東かわら版』No.42(2015年6月17日)を参照)。一審の判決に対してはアリー・サルマーン側、検察側の双方が不服とし、控訴をしていた。

 ウィファークは今回の判決について、政治的な動機に基づくものであるとし、「受け入れ難く、扇動的である」と強く非難し、「バハレーンにおける政治危機を深めることになる」と警告した。また、バハレーン滞在中のハモンド英外相は、「法的手続きの更なる段階があると理解している」、「本件については緊密にフォローしていく」とTwitter上でコメントした。

  

評価

 2014年12月の拘束以来、シーア派の政治代表として最大の団体の指導者であるアリー・サルマーンの処遇については、国内外から注目を集めてきた。判決前日には同人の無罪放免を求めるデモが行われたほか、判決後にはこれに抗議するデモも行われた模様であり、国内の治安状況に直結する問題である。特に、今回の判決では一審よりも刑が重くなったことが大きな反発を呼んでおり、国内の政治的な分断は一層深刻化する恐れがある。今のところ平和的なデモしか発生していないものの、情勢の流動化には留意する必要があろう。

 他方、バハレーンの国内政治状況を問題視する国際的な環境は失われつつある。2015年6月16日の一審判決の直後となる同月29日、米国政府は、同一審判決を引用しながらバハレーンの人権状況が適切な状態にはないとしながらも、人権問題に関する改革や国民和解に進展があったとして、2011年から凍結していたバハレーン政府への軍事支援を再開することを発表した。今回のハモンド英外相のTwitter上の発言は、判決について直接の論評を差し控えるものであり、更にその直後にはハマド国王と会談して「改革の継続への関与を歓迎する」とのコメントを投稿したため、多くの人権活動家から批判を受けている。英国は新たに海軍基地をバハレーンに建設中であり「バハレーン:英国海軍の恒久基地受け入れを決定」『中東かわら版』No.200(2014年12月8日)を参照)、バハレーン政府としてはこうした状況を利用して欧米諸国との関係が維持されるのであれば、国内問題で更に断固とした対処を進めていくことになろう。

(研究員 村上 拓哉)

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