中東かわら版

№148 サウジアラビア・イラン:国交断絶を巡る周辺国の動き(2)

 1月3日のサウジアラビアとイランの国交断絶を受け、周辺国が様々な外交的立場を表明している。周辺国のイランとの外交関係を示した図表は以下のとおり。

 

表: 周辺国のイランとの外交関係一覧(2016年1月7日現在)

 出所:筆者作成

   

 図: 周辺国のイランとの外交関係(2016年1月7日現在)

注:赤:国交断絶 桃:1月3日以前に国交断絶 橙:外交関係格下げ 黄:大使召還 青:仲介申し出

出所:筆者作成

 

評価

 1月4日時点では、バハレーン、スーダンがイランとの国交の断絶、UAEが外交関係の格下げを発表していたが(詳細は「サウジアラビア・イラン:国交断絶を巡る周辺国の動き」『中東かわら版』No.145(2016年1月5日)参照)、その後、複数の国家がこれに追随する動きを見せている。もっとも、国交断絶を決定したジブチを除き、クウェイト、カタルの措置は大使の一時的な召還であり、イランとの関係は維持される見通しである。イランとの外交関係を持たないエジプトは、5日にシュクリー外相がサウジアラビアを訪問しており、ジュベイル外相との会談において、サウジによるニムル師を含む処刑へのイランの行動は「サウジアラビアへの内政干渉である」と述べた。

 こうした周辺アラブ諸国の動向は、地域の宗派的な分断を深め、緊張を高めるものとして一部では見られている。特に、サウジアラビア側から処刑、国交の断絶という行動がとられたことをもって、サウジが意図的にこうした緊張を生み出したという分析も散見される。しかしながら、サウジが宗派的な対立構造を強調したかったのであれば、2日の処刑においても、シーア派の死刑囚のみに刑を執行すれば十分であり、43人ものアル=カーイダ関係者と同時に行う必要はなかった。また、イランとの国交断絶によってスンナ派諸国の団結を図ろうとしたのであれば、周辺国と事前に協議して支持を取り付けておくことが重要であろう。特に、サウジアラビアがイランとの国交断絶を公表するのと時間を置かずに、同様の措置がサウジの友好国から発表されたのであれば、スンナ派諸国の団結を示すためには効果的であった。しかし、実際には、サウジと最も関係の深いバハレーンですらイランとの国交断絶を発表するのに半日以上かかっている。GCC諸国であるカタル、クウェイトの発表は更に遅れ、その措置も大使の一時的な召還に留まっており、彼らが一枚岩の状況にあるとは言い難い。

 米国、ロシアを含め国際社会がサウジ・イラン間の緊張の緩和に努めているほか、地域諸国のなかでもトルコ、イラクが仲介を申し出ている。国交断絶の契機となったイランのサウジ大使館・領事館襲撃では幸いにして人的な被害は発生しておらず、両国が直接的な衝突に向かわざるを得ないような事態は今のところ生じていない。核合意による制裁解除および国会議員選挙を間近に控えるイラン政府は、サウジとの紛争がエスカレーションすることを望んでおらず、大使館襲撃についても法に則って適正に対処する方針だ。国内の保守強硬派の牙城である革命防衛隊の幹部からも、「大使館襲撃は誤りであった」という発言が出ており、少なくとも表面上は抑制的な動きを見せている。

(研究員 村上 拓哉)

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