中東かわら版

№145 サウジアラビア・イラン:国交断絶を巡る周辺国の動き

 1月3日にサウジアラビアがイランとの国交断絶に踏み切ったことを受け、周辺アラブ諸国がサウジに同調する動きを見せている(国交断絶の詳細については「サウジアラビア・イラン:国交の断絶」『中東かわら版』No.144(2016年1月4日)を参照)。1月4日、バハレーンおよびスーダンは、サウジアラビア同様、イランとの外交関係を断絶し、自国の外交官の召還および自国に駐在するイラン外交官の国外退去を決定した。また、UAEは、イランとの外交関係は維持するものの、大使は召還し、イランに駐在する自国の代表を臨時代理大使に格下げすると発表した。

 また、イランとの国交の断絶を決定したサウジアラビアは、翌4日、イランとの通商関係の断絶、自国民のイラン渡航の禁止、イランとの航空機の発着の禁止についても措置をとる姿勢を表明した。他方、イランからサウジへの巡礼者については、引き続き受け入れる方針である。

 

評価

 サウジ・イラン間の関係悪化の影響は周辺国にも波及している。国内の反体制派対策という観点から対イラン外交でサウジともっとも近しい立場にあるバハレーンが、イランとの国交断絶に踏み切ったことは、大方の予想通りであった。他方、スーダンがサウジの動きに同調したことは、近年急速に二国間の関係が改善されてきたとはいえ、若干意外であった。スーダンはかつてイランがパレスチナの武装勢力へ兵器を輸送するためのルートにされていた疑いがあり、同問題を巡ってはサウジ側が懸念を抱いていた。スーダンのバシール大統領はダルフール紛争での虐殺に関与した疑いで国際刑事裁判所から逮捕状が発行されており、国際的に孤立しているが、2015年3月末に開始されたサウジ主導のイエメン紛争に部隊を派遣するなどして、サウジとの関係を強めていた。これを受け、7月から8月にかけて、サウジからスーダンの中央銀行に合計10億ドルの預金がなされるなど、サウジはスーダンへ経済的支援を行っている。今回スーダンがイランとの国交断絶を決定した背景には、こうしたサウジからの経済援助を期待していることがあろう。

 他方、外交関係を格下げしたとはいえ、UAEはイランとの国交を維持する選択肢をとった。イエメン紛争ではサウジアラビアと共同歩調をとり、サウジ軍に次いで犠牲者を出しているUAEが、対イランではサウジと若干の距離をとったことは注目に値する。UAEはイランと領土問題を抱えており、昨今のイランの対外政策にも厳しく反対する立場であるが、ドバイがイランの中継貿易を担ってきたこともあり、経済的な関係は深い。外交上イランを強く非難することはあっても、こうした経済分野にまで外交上の紛争の影響が出ることは望んでいないだろう。

 今回のサウジ・イランの国交断絶を巡っては、スンナ派対シーア派という宗派対立の構図が盛んに喧伝されているが、同じスンナ派諸国でありサウジとの関係が深いUAEですら、サウジと完全に同調しているわけではない。その他の周辺アラブ諸国においても、大使館襲撃についてイランを批判することはあるだろうが、イランとの外交関係の見直しといった点でサウジに追随する動きを見せるかどうかは疑問である。

(研究員 村上 拓哉)

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