中東かわら版

№131 UAE:殉教者の日

 11月30日、UAEは「殉教者の日」を迎えた。同記念日は、イエメン紛争にてUAEの兵士が多数犠牲になっていることに伴い、8月19日に新たに制定されたもの。アブダビでは、ムハンマド皇太子を始め各首長国の首長が参加する大規模な式典が開かれ、国家のために犠牲になった兵士らが称揚された。

 

図:「殉教者の日」の公式ロゴ

 

出所:アブダビ皇太子府

 

評価

 UAEはサウジアラビアに次いでイエメンでの紛争に深く介入しており、犠牲者も多数出している「UAE:イエメン紛争でUAE軍兵士45人が死亡」『中東かわら版』No.84(2015年9月7日)を参照)。殉教者の日に合わせて、『Gulf News』は1971年のUAE建国以降に出た殉教者のリストを公開したが、それによると190人のうち69人がイエメン紛争に関連して亡くなっており、わずか数カ月で全体の3割を越える殉教者が発生していることになる。

 UAEがイエメンに介入する理由としては、イランの影響力の拡大を阻止し同盟国であるサウジアラビアを支援するという目的が掲げられているが、国境を接していないイエメン国内において多数の自国兵士の犠牲を出す理由としては根拠が弱いのではないだろうか。「殉教者の日」が制定され、国家を挙げて壮大な追悼式典が行われているのは、犠牲者およびその遺族に対して最大限の尊重を示すことで、介入の根拠の薄弱さを覆い隠そうとしているようにも見える。7月の地上軍派遣以降、南部のアデンを奪還し、9月末には北部のマアリブも支配下においたと報じられたが、それ以後、戦線は膠着している状況である。犠牲者の発生は短期的には国民の愛国心を高めることにつながるだろうが、このまま紛争が長期化した場合、厭戦気分の高まりとともに、出口の見えない紛争に介入した政府への批判が起こりかねない。

 一方、UAEはコロンビア人を主体とするラテンアメリカ系の外国人傭兵部隊をイエメンに派遣したとの報道がある。10月の時点ではサウジアラビアと契約した800人規模の部隊が派遣されたという報道が主流であったが、11月に入るとUAEの指揮下にて450人規模の部隊が派遣されているという報道が出てくるようになった。本件について政府からの公式コメントはなく、真偽の程は定かではないが、仮に同部隊が派遣されたとなると、11月上旬に帰国したUAE軍の第一陣と入れ替わるタイミングで派遣された可能性が高い。こうした外国人部隊を前線に派遣することは、自国民の犠牲を抑えたいUAEにとっては合理的な選択肢であろう。「殉教者の日」のような式典によって国民の不満を全て解消することはできない以上、UAEによるイエメン介入のあり方は何らかの変化を迎える可能性がある。

(研究員 村上 拓哉)

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