講演会の報告

6.27 中東情勢講演会(村上拓哉研究員 中東調査会)

  • 講演会の報告
  • 公開日:2017/07/07

2017年6月27日(火)、フォーリン・プレスセンター「会見室」にて、村上拓哉・中東調査会研究員による中東情勢講演会を開催いたしました。

 

講 師:村上 拓哉(中東調査会研究員)

演 題:「サウジアラビアの統治構造の変化と地域情勢への影響:一極化する権力、加速する世代交代」

 

(講演会要旨)

 6月21日に突如発表されたサウジ皇太子の交代は、内外に大きな驚きをもたらした。サルマーン国王が自身の息子であるムハンマド・サルマーン(MbS)副皇太子を将来の国王にすることを強く推進していることは明らかであったものの、それまで皇太子の座にあったムハンマド・ナーイフ(MbN)は出自や年齢、家族構成から考えると中継ぎとして最適という見方もあったからである。

 他方で、内務省の所掌が徐々に縮小されるなど、MbNの権限は削られていく一方、MbSは国内外で高い存在感を発揮し、米国との関係構築にも成功していた。カタル断交危機という不可思議なタイミングではあったものの、当初からサルマーンがMbSを皇太子の座に引き上げることを予定していたのであれば、自身が健在のうちに路線を確定していくことは必須であったといえる。

 皇太子就任により、今後、MbSによる数十年単位の長期政権が成立することが予想される。統治基本法の改正によりMbSは自身の息子を皇太子に指名することができなくなったものの、権力が一手に集中しているMbSの意向に反対できる王族が将来存在するのかは疑問である。新たな内相にはMbSの下で働いた経験のあるMbNの甥が就任しており、ナーイフ家は引き続きサルマーン家と協調関係にあると言える。

 MbSは既に経済、内政、外交、軍事の主要な政策の決定者であり、今回の皇太子交代でも現在進めている路線の継続が改めて確認されたに過ぎない。これまで制度的な硬直状態に陥り変化の乏しかったサウジアラビアの威信が高まるかどうかは、改革の成否に左右されることになるだろう。

 

 (質疑応答では、内務省の純軍事的な権限が将来削減されるかどうか、サウジアラビアの対イラン、イエメン、カタル政策の変化の可能性、皇太子の交代を一般のサウジ国民がどう見ているかなどについて質問があった。)

 

(※講演内容は講師の個人的見解であり、講師の所属先の立場や見解、認識を代表するものではありません)

 

講師略歴

 

**村上 拓哉 (むらかみ たくや)

 

2016年3月、桜美林大学大学院国際学研究科博士後期過程満期退学。クウェイト大学留学、在オマーン日本国大使館勤務を経て、2014年4月より現職。専門は湾岸地域の安全保障・国際関係論。主な業績に、「湾岸地域で高まる緊張:オバマ政権の不介入主義と揺らぐ同盟」『中東研究』第527号(2016年9月)、「アラビア半島諸国:中東地域秩序における台頭」松尾昌樹・岡野内正・吉川卓郎編『中東の新たな秩序』(ミネルヴァ書房、2016年5月)、「湾岸地域における新たな安全保障秩序の模索:GCC諸国の安全保障政策の軍事化と機能的協力の進展」『国際安全保障』第43巻第3号(2015年12月)などがある。

 

以上

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