6.14 第16回中東情勢分析発表会(中島主席研究員、村上研究員)
- その他の行事
- 公開日:2017/07/07
2017年6月14日(水)、フォーリン・プレスセンター「会見室」にて、中東調査会の中島勇主席研究員と村上拓哉研究員による第16回中東情勢分析発表会を開催いたしました。
報告者:中島勇主席研究員・村上拓哉研究員
演題:「トランプ政権の中東和平政策」(中島主席研究員)
「トランプ政権の中東政策~湾岸諸国への期待と混乱の創出~」(村上研究員)
(発表要旨)中島勇主席研究員
トランプ大統領は、親イスラエル的で過激な言動をする人物であるとされた。そのため、トランプ政権が強硬な対中東和平政策を取ることが懸念されたが、実際には同政権は現実的で、米国の従来の政策を堅持する姿勢を見せている。こうした政策方針を理由に、イスラエルの極右や入植者たちは、トランプ大統領に失望している。
トランプ大統領の政策は現実的である。その理由として、トランプ大統領自身が、元々、中東和平問題について現実的な考え方をしていた、あるいはクシュナー上席顧問が穏健で現実的な考えを持っていることが推測される。こうした見方は、今の時点では確証できない。
ただし、トランプ大統領が、中東和平交渉の再開と合意達成に熱心であることは明白であり、強い個人的な思い入れがあると推定される。なお、トランプ大統領は、まだ具体案を提示していない。一方で、イスラエル国民・政府は、パレスチナとの交渉再開に前向きではなく、今のまま何もしない現状維持を志向している。以上の事柄を踏まえると、トランプ政権が、イスラエル側の考え方を変えるような方策を打ち出せるかが、交渉が再開するためのポイントになるだろう。
直近の予定としては、6月下旬頃から、国際交渉担当特別代表ジェイソン・グリーンブラットとクシュナー上席顧問が、紛争当事者からの聞き込みを開始し、またイスラエルとパレスチナの代表団もワシントンを訪問する予定である。こうしたアメリカ、イスラエル、パレスチナが進めようとする議論の中から、交渉再開を巡る具体案が出て来ることが期待される。
(発表要旨)村上拓哉研究員
トランプ政権の中東・湾岸政策は不透明な部分が大きいものの、いくつかの傾向は明らかになっている。具体的には、中東の秩序維持にかかるコストを積極的に負担することを避ける不介入主義、イスラーム過激派の国内流入を防ぐことを最優先する内向きの政策志向、そして秩序維持の負担を肩代わりさせるための同盟国の重視である。
この点から、米国としては、湾岸地域においては伝統的な同盟国であるGCC諸国に対して、武器の購入やテロ対策での主要なパートナーとなることを期待してきた。他方、この見返りとしてGCC側は米国にイランへ強硬な態度に出ることを求めている。トランプ政権はイラン核合意については維持する方向に立場を変えたものの、テロ支援やミサイル開発に対しては制裁を強化する動きを見せている。今後「イスラーム国」の掃討が進むと、米・イラン間で協調する必要性が薄れ、両者の緊張は高まることになるだろう。
トランプ大統領のリヤード訪問では、これらの政治的傾向を再確認することができた。過激主義の打倒を各国の指導者に呼びかけるとともに、地域の問題は地域で解決すべきと米国が一歩引いた見方を提示している。その一方で、サウジとは米国史上最大規模となる武器契約を結んでおり、対テロ、対イランでのサウジへの期待が垣間見える。しかし、6月にはカタル断交危機というGCC諸国間の紛争が顕在化したように、米国が期待するような地域諸国の連携は実現が困難な状況にある。
(質疑応答では、トランプ政権内で中東政策の意思決定を担う人物について、またパレスチナ・イスラエル紛争に同政権が今後与える影響、カタル断交危機などの質問があった。)
【研究員略歴】
**中島 勇(なかしま いさむ)
専門:中東和平問題、イスラエル、パレスチナ
職歴
2004年3月~ 中東調査会主席研究員
2000年4月 中東調査会研究員(職務復帰)
1998年4月 在イスラエル日本国大使館専門調査員(~2000.3)
1981年9月 中東調査会研究員
学歴
1977年3月 上智大学文学部歴史学科(東洋史)卒業
**村上 拓哉 (むらかみ たくや)
専門:湾岸地域の安全保障・国際関係論、現代オマーン政治
職歴
2014年 4月 中東調査会研究員(現在に至る)
2011年 2月 在オマーン日本国大使館専門調査員(~2013年2月)
学歴
2016年 3月 桜美林大学国際学研究科博士後期課程満期退学
2009年 9月 クウェート大学留学(~2010年8月)
2009年 9月 桜美林大学国際学研究科博士前期課程修了(修士号)
2007年 3月 中央大学総合政策学部卒業
以上