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12.13 中東情勢講演会(髙橋博史 前駐アフガニスタン大使)

  • 講演会の報告
  • 公開日:2016/12/26

2016年12月13日(火)、フォーリン・プレスセンター「会見室」にて、アフガニスタンから帰朝された髙橋前大使に、アフガニスタンをめぐる最近の情勢と今後の見通しについてお話いただきました。以下は講演の要旨です。

「最近のアフガニスタン情勢」

1.カルザイ政権の功罪

 アフガニスタンの混乱は今後も続く。その最大の原因はカルザイ前大統領にある。カルザイ大統領は、有能ではあるが、部族主義者であり近代国家の制度を信用しなかった。この部族重視の政治では、複数のエスニック・グループ、部族、軍閥等のバランスを保ち、コントロールすることによって政治の安定が図られた。部族主義では部族長によって決定がくだされる。そこには近代的な組織は必要としない。そのためアフガニスタンでは国のシステムが整備されず、既存の官庁や警察があっても国家の指導の下で機能する形になっていない。国家が国家として機能していないのがアフガニスタンの問題である。
 もう一つの大きな問題は、部族主義の結果、汚職と腐敗が蔓延する社会になったことである。私の知っている1970年代のアフガニスタンには賄賂などはなかった。賄賂や汚職が増加したのは2002年頃からではないかと思う。腐敗の進行具合はすさまじい。ターリバーンが民衆の支持を得る最大の理由は、彼らは腐敗していないことにある。例えば、地方で交通事故を起こした場合、警察の判断は、賄賂できまる。他方、ターリバーンは事情を聞いた後、シャリーアに沿って判断する。また、彼らはお金を要求するわけではない。国民が、どちらを支持するかは明白である。これらが、カルザイが残した大きな負の遺産である。

2.大統領選挙

 カルザイ前大統領は、自分の影響力を残そうとしたために、ガニー元財務相を支持した。他方、対立候補であったアブドラー元外務大臣は、カルザイとは相容れない関係にある。部族主義にうんざりしていた国民は、カルザイの後に別の新しい大統領を希望した。これが1回目の投票に600万人が参加した理由である。国民は変化を求めた。しかし決選投票では、選挙違反の事例が多数見られた。ガニーとアブドラーは自分が勝ったと主張して対峙した。話合が不調に終れば、戦闘勃発という状態になった。最後は、米国のケリー国務長官の仲裁で、ガニー大統領とアブドラー行政長官体制で決着させるという政治決断がなされた。

3.二頭政治の問題点

 この二人は知識人階層という点では共通しているが、経歴がかなり異なっている。ガニーは長い間、世界銀行のコンサルタントを勤め、国際援助に詳しく、国家の建設においては非常に有能である。しかし、アメリカでの亡命生活が長く、国の現状を掌握しきれない。一方、アブドラーは北部同盟のマスード司令官の腹心として各地を転々していたため、アフガニスタンの現状や地方社会を良く知る調整型の人物であるが、軍閥との関係が深いという負の遺産もある。
バックグラウンドの異なる二人が協力すれば、混乱したアフガニスタンをまとめて、復興を成し遂げることは夢ではないと考えた。ロンドン閣僚会議において、ガニー大統領はアフガニスタンの復興のために、地域の連結性を重視したパイプラインや鉄道の建設という国家ヴィジョン打ち出した。カルザイ前大統領とは全く異なるアプローチに多くの支援国が感動した。しかし、急速な近代化は、カルザイの残した負の遺産のために様々な分野で停滞をきたした。人事は刷新できず、そのため汚職・腐敗への取り組みが進まず、国民の信頼を失うこととなった。その中で、アブドラー行政長官も大統領批判を強め、大統領はますます孤立し、国家の運営自体が困難になってしまった。そこにターリバーンの勢力拡大の要因がある。

4.今後の展望

 テロのない国家を目指すには、和解が第一の段階となるが、そのためには腐敗を一掃する必要がある。民心が反政府のターリバーンを支持するのは、コーランに基づき裁定を行うターリバーンに腐敗がないからだ。しかし検察庁長官を決定するのに2年もかかるようでは、国民の不安は増し、和解にはたどり着くことができない。また、ターリバーンは国際テロとは関係がないと主張している。しかし、統治・治安機構が脆弱なアフガンには様々な国際テロ組織が入り、拠点としてしまっている。こうしたテロ組織は和解を妨げ、治安も悪化し、国民の不満がますますつのる状況になっている。アフガン政府の安定は、アメリカの対テロ対策というコンテクストを超えて、我が国の安全にとっても極めて重要な課題として捉えるべきである。それほどに国際テロは世界に脅威を与える存在となったと考える。

 和解、そして国家の再建をどうするのか。国際テロの巣窟となりつつあるアフガニスタンの現状は国際社会の問題であり、国家再建を支援する我々自身の問題でもある。そのモデルとなりうる事業がある。アフガニスタン東部・ガンベリ砂漠でペシャワール会の中村哲氏が中心となり、JICAと共同で行ってきた灌漑事業である。結果として、一万五千haの砂漠が緑に覆われ、60万人の難民が戻り、耕作に従事するようになった。激流として知られるクナール川の治水には、福岡の山田堰に用いられた江戸時代の手法が参照されている。その結果、戦闘が起きない地帯が出現した。住民が自分の権益を守るために、ターリバーンも寄せ付けず、ヘロインに頼る必要もないからだ。
 また、国際援助ではメンテナンスの問題が支援側・住民側で十分に認識されていないことが多いが、蛇籠といわれる石積みと柳の根で補強された用水路は、住民たちの手で維持することが可能である。こうして砂漠であった土地には魚が戻り、渡り鳥が飛来し、遊牧民も逗留するようになった。地方再生である。ターリバーンもこの事業には感謝している。地道で、長い道のりに見えるが、実はこうした方法が、長いように見えて、紛争解決への一番の近道ではないかと考える。

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質疑応答では、アフガニスタンの不安定さの外的・内的要因、ターリバーンとIS(イスラーム国)の関係、アフガン政府の対応などについて質問と説明がありました。

 

(※講演内容は講師の個人的見解であり、講師の所属先の立場や見解、認識を代表するものではありません)

講師略歴

髙橋 博史(たかはし ひろし)
前駐アフガニスタン特命全権大使(現外務省参与)

昭和24年生 福島県出身。拓殖大学卒業。

昭和63.11 在パキスタン日本国大使館専門調査員
平成  元  9 上智大学大学院外国語学研究科修了
   2. 3 外務省入省
  12.10 国際連合タジキスタン平和構築事務所(タジキスタン共和国ドゥシャンベ)
  13.12 在ウズベキスタン日本国大使館一等書記官
  14.    2 国際連合アフガニスタン特別ミッション(アフガニスタン国カブール)
         9 在アメリカ合衆国日本国大使館一等書記官
  15.    8 在ウズベキスタン日本国大使館一等書記官
           兼タジキスタン日本国大使館
  20.    5 国際情報統括官付情報分析官
           兼国際情報統括官付(第二国際情報官室)
  23.    9 国際情報統括官付国際情報官(第二国際情報官室担当)
  24.    9 特命全権大使アフガニスタン国駐箚
  28.11 外務省参与

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