講演会の報告

7.11 中東情勢講演会(酒井啓子・千葉大学教授)

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  • 公開日:2016/06/29

 7月11日、フォーリンプレスセンターにて、下記の通り中東情勢講演会を開催いたしました。

 

講 師:酒井 啓子教授(千葉大学・法政経学部長)

演 題:「イラク・ファッルージャでの対IS作戦が抱える新たな問題」

 

 まず最近の情勢として「イスラーム国」の掃討作戦や首都バグダードで発生した爆破事件を概観された後、イラク国内の安定を中長期的に見通すに際し、「宗派・民族対立」構図の背景を理解することの重要性について指摘がなされました。

 そして元来イラクは世俗国家であり、政治はスンナ派、財界はシーア派、といった伝統はあったものの、宗派による分断は表立って行われていなかったこと、現在の「宗派・民族」別権力配分の発端として、湾岸戦争後、英米の支援のもと組織化された反体制派の「イラク国民会議」の存在があったこと等について説明がありました。そこでは各社会集団の代表として、スンナ派から旧バアス党幹部の軍人、シーア派からは穏健イスラーム主義の指導者、そしてクルド民族運動の指導者が選出されていましたが、イラク戦争後、バアス党の解体・パージによって、スンナ派の受け皿となる母体が消滅したことが、スンナ派「部族」を動員する構図を生み出したという流れを明らかにされました。

 しかしスンナ派「部族」も、そして「宗派」も決して一枚岩ではなく、むしろ新政権下で利益を得る者と不利益を被る者の対立として捉えるべきであり、「イスラーム国」を巡る動員過程・メディアの言説において宗派的シンボルが多用される背景には、イラン・サウディアラビアの域内覇権抗争があることを示されました。 

 質疑応答では、シーア派における「部族」、イラク・ナショナリズムと宗派対立の関係、イラクにおける「クルド」の位置などについての質問があり、宗派を超える「イラク人」意識の存在や、イラク国家にはおさまらない「クルド」の独立への諸課題について詳しい解説がありました。

 

 (※講演内容は講師の個人的見解であり、講師の所属先の立場や見解、認識を代表するものではありません)

 

講師略歴

 酒井啓子(さかい けいこ)

千葉大学法政経学部教授・学部長

学歴

昭和57.3  東京大学教養学部教養学科国際関係分科 卒業
平成7.1  ダーラム大学 修士号(Social Sciences)

職歴

昭和57. 4  アジア経済研究所 研究員
昭和61. 5  在イラク日本大使館 専門調査員
平成  1. 4  アジア経済研究所 研究員
平成  6. 4  カイロ・アメリカン大学客員研究員(アジア経済研究所在カイロ海外調査員)
平成14. 4    アジア経済研究所 主任研究員
平成15. 4  アジア経済研究所 参事
平成17.10    東京外国語大学大学院地域文化研究科 教授
平成21. 4  東京外国語大学総合国際学研究院(先端研究部門) 教授
平成24.10~ 千葉大学法経学部 教授
平成27. 4 ~ 千葉大学法政経学部 学部長

※日本国際政治学会理事長(平成24~平成26年)

 以上

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