講演会の報告

2016.06.10 中東情勢研究会

  • 講演会の報告
  • 公開日:2016/06/20

開催日時:平成28年6月10日(金)18時~20時、於:中東調査会

報告者: 青山弘之(東京外国語大学教授)

報告題目:シリアでの世論調査を通してみる「シリア内戦」の実情

出席者:錦田愛子(東京外国語大学准教授)他16名、中東調査会:村上、西舘、髙岡

 

概要

*青山氏より、以下の通り報告した。

  • 本報告では、「内戦」ないしは「独裁」などと称される混乱の中シリアで世論調査を実施することや、調査結果を分析することの意義について考察する。中東という特殊な地域、中でも権威主義・独裁体制が敷かれている国々においては世論調査に代表される研究手法を用いても地域の実態解明には至らないとの意見が強いが、2015年末~2016年はじめにかけてシリアの研究機関である「シリア世論調査研究センター」が東京外国語大学を拠点とする「「アラブの春」後の中東等における非国家主体と政治構造」(科学研究費助成事業 基盤研究B)の委託を受けて行った個別訪問面接調査法による全国規模の世論調査を実施した(http://cmeps-j.net/swfu/d/report_syria2016.pdf)。
  • シリアにおいては、現在の紛争勃発前から様々な世論調査が実施されてきた。その一方で、調査対象(サンプル)の抽出手法が明示されていなかったり、電話アンケートとして実施されたりするなど、問題点のある調査が多かった。そうした中、2007年に文部科学省2006年度世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業「アジアの中の中東:経済と方を中心に」がシリアの「シャルク国際研究センター」に委託して調査を行った。この調査は、質問票が難解だったことを主な理由として調査対象の中で大学生の比率が上がったという問題があったが、調査結果の計量分析を通じて「政治的認知地図(http://d-arch.ide.go.jp/idedp/ZME/ZME200901_003.pdf)」の作成などの成果を上げた。
  • 紛争勃発後も様々な立場から世論調査が実施された。調査の中には、イギリスのOpinion Research Businessによる世論調査(2014年8月)での対面式世論調査など注目すべき業績がある一方で、調査対象の数や内訳、質問内容の政治的偏向などの問題を抱えるものも多い。
  • 2007年の調査と2016年の調査のうち、シリア国民による諸外国に対する評価のデータを比較したところ、トルコ、サウジアラビアに対する評価が著しく低下していた。2007年の調査では選択肢に加えなかったカタルも、2016年の調査ではイスラエルに次いで評価が低かった。なお、アメリカについては両調査共に評価が低い。一方、ロシア、イランに対する評価は2007年の時点で既に高く、紛争勃発前後で両国に対するシリア国民の評価に大きな変動はない。また、2016年の調査では、シリア側の実施機関が独自に追加の質問を設定し、質問票に手書きで加筆して調査を行っていることが判明した。追加された質問は「あなたは今年を楽観視していますか?」、「あなたの個人的な望みは何ですか?」との二点であり、これに対する回答の分析も興味深いものとなると思われる。

 

*質疑では、政治的な偏向を極力回避した質問票の設計という課題についての議論や、質問票に居住地・使用言語・所得水準などの人口学的設問を設けたことの意義についての質問・議論があった。

(了)

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