中東かわら版

№76 イスラーム国の生態:若年女性の勧誘を強化?

 2016年8月9日付『シャルク・ル・アウサト』紙(サウジ資本)は、エジプトでの調査報告を基に「イスラーム国」が若年の女性の勧誘を強化しているとして要旨以下の通り報じた。

  • 「イスラーム国」はイラクやシリアで占拠した地域からの戦闘員の逃亡が相次いでいるため、SNSを通じて18歳~25歳の若年の独身女性の勧誘に努めている。勧誘された者は、「ハンサー部隊」、「ウンム・リヤーン部隊」に配属される。彼女たちは、「イスラーム国」からの指示に従い、そのための活動に専属することを条件に50ドル程度の月給をもらう。
  • 女性を勧誘するため、従来とは異なる勧誘の手法が用いられている。斬首や殺人、女性や子供の虐待の画像の使用は避けられ、「イスラーム国」の下での家族生活のあり方や、出産の賞賛が用いられている。「イスラーム国」は構成員に性的な奉仕をさせるための「結婚ジハード」との論理で女性を勧誘する手法を開発している。
  • エジプトの消息筋は、「イスラーム国」が勧誘した独身女性に武器の使用方法を訓練させ、将来欧米諸国などを攻撃させようとしていると指摘した。
  • 観測筋は、「イスラーム国」に合流した女性のうち、思春期の年代の者の割合を55%と推定した。彼女たちは、当初単に「イスラーム国」の構成員との結婚を夢想していたが、後に自爆攻撃の実行や戦闘への参加を希望するようになる。
  • 若年女性が「イスラーム国」に勧誘に応じる動機としては、「イスラーム国」に合流することによって暴力や侵害行為から守られたり、自分の立場が強くなったりすると信じ込んでいることが考えられる。また、ヨーロッパ人の少女たちは、「イスラーム国」の勧誘により現在の環境からの脱出、冒険志向、不信仰者との戦いを想像して勧誘に応じると思われる。

評価

「イスラーム国」が戦闘員への性的奉仕や結婚の対象として女性を勧誘していることは知られていたが、今般の報道で注目すべき点は、男性の戦闘員の逃亡や不服従を制御できなくなった「イスラーム国」がより御しやすい若年女性の勧誘に力を入れているとの指摘である。また、勧誘した女性に欧米諸国などで攻撃を実行させる可能性も指摘されているが、イスラーム過激派が女性であることや女性ムスリムの服装についての遵守事項を利用して攻撃を行った例は過去にもあるため、今後の対策で留意すべき点となろう。社会的な地位や立場が不安定な者はテロ組織に利用されやすいため、若年女性の被害を防ぐ対策が急務となろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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