中東かわら版

№27 イラン:インド、アフガニスタンとチャーバハール港の開発で合意

 5月23日、イランはインド、アフガニスタンとチャーバハール港(イラン)の開発を進め、3カ国間での物流を円滑にする協定に署名した。また、22日にはイランとインドの間で12の分野で合意が結ばれ、同港の開発にインドが5億ドルの投資を行うこと、チャーバハールからアフガニスタンとの国境近くの街であるザーヘダーンまで約500kmの鉄道網を敷くことにインドが協力していくことなどが確認された。

 インドからはモディ首相、アフガニスタンからはガニー大統領がイランを訪問し、合意締結後、ロウハーニー大統領とともに3首脳による共同記者会見が実施された。ロウハーニー大統領は、今回の協定によりインドからアフガニスタン、中央アジア、コーカサス諸国を結ぶことが可能になったと述べ、これは単なる経済協定ではなく政治的・地域的な文書であり、イラン国民にとって歴史的な日になったと高く評価した。また、同大統領は同協定に他の国も参加することを呼びかけた。

評価

 インドの首相によるイラン訪問は15年ぶりであるが、制裁下にあっても原油の輸出先第2位であったインドとイランの関係は、以前から概ね良好であった。こうした関係は、1月に対イラン制裁が緩和されたことにより、かねてより二国間の最大の関心であったチャーバハール港の開発事業への着手というかたちで、大きく弾みをつけることになったといえよう。

 イランとしてはホルムズ海峡の外側にハブ港を擁することになり、さらに国内でも開発が遅れているスィースターン・バルーチェスターン州の経済活性化につなげることができる。同州は、隣接するパキスタンにまたがって居住するスンナ派のバルーチ人が多数派を占める地域であり、「神の戦士」や「正義軍」といった武装組織が反体制活動をするなど、治安も安定していなかった。チャーバハール港が物流の拠点となり、周辺地域に工場が建設されるなど雇用を創出することができれば、同地域の恒常的な安定にもつながろう。

 他方、インドとしては、パキスタンを経由せずにアフガニスタン、そして中央アジアに物資を輸出することが可能になる。ジャラールポール・イラン商工鉱農会議所会頭は、インドの同地域への輸送コストは30%低減することになるだろうと予測している。同時に、これは中国によるパキスタンのグワーダル港への開発に対抗する意味合いが強いと見られている。チャーバハールから西に約70kmの地点にあるグワーダルは中国の新疆ウイグル自治区のカシュガルから始まる中パ経済回廊の出口に位置しており、近年中国が推し進めている経済圏構想「一帯一路」(陸上のシルクロード経済ベルト(一帯)と海上シルクロード(一路)から成る)と合わせ、中国のインド洋進出への主要なルートの一つとされている。インドは中国がインド洋に大きな影響力を行使できるようになることを望んでおらず、チャーバハール港の開発を急ぐことでグワーダル港の戦略的な重要性を下げる狙いがあるだろう。

 こうした中国・インド間の対立は、現時点では経済的な競合にとどまっており、イランがインドと合意を結んだことでイラン・中国関係が悪化に向かうということは考えづらい。前述の「一帯一路」構想では、イランも中央アジアからテヘランに向けての陸上ルート(一帯)に入っており、中国にとって主要な提携先の一つだ。1月に習近平・国家主席がイランに訪問した際にも、「一帯一路」の建設に向けて両国が協力していくこと、今後10年間で6000億ドルの貿易を行うことで合意している。イランとしては、中国・インド間の競合を利用しつつ、国内インフラなどへの投資を引き出していくことを目論んでいよう。

※イラン核合意を受けたイラン、インド、パキスタン関係については、栗田真広「イラン核合意と南アジア:パキスタンの視点から」『中東研究』第525号、2016年1月をご参照ください。

 図:チャーバハール港周辺地図

 

出所:Google Mapより筆者作成

(研究員 村上 拓哉)

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