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2023年度外交・安全保障事業

  • NEWコメンタリー
  • 公開日:2026/03/12

「イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から⑨」米国とイランのあいだでバランスをとるロシア

 MEIJコメンタリーNo.20

【イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から⑨】

2026年2月28日に発生した米国・イスラエルによる対イラン攻撃と、その後のイランによる報復攻撃を受け、中東情勢は一段と緊迫している。こうした事態を踏まえ、本連続コメンタリーでは、「イラン情勢を俯瞰する――中東ユーラシアの視点から」を主題として、研究会の各委員がそれぞれの専門地域・専門分野から今回の情勢を分析し、その背景と影響を考察する。

 

「米国とイランのあいだでバランスをとるロシア

一般社団法人ROTOBO ロシアNIS経済研究所 主任 中馬 瑞貴 

※本稿は筆者個人の意見を記したものであり、所属機関を代表するものではありません。 

 

はじめに

 2026年2月28日に始まった米国とイスラエルによる対イラン攻撃は、本稿執筆時点(3月11日)で続いており、事態は刻々と変化していることから、断定的なことが言えるわけではないが、攻撃から10日間のロシアの動きや政治高官の発言から見えてくるロシアへの影響をまとめておくことにしたい。

 

友好国イランとの一定の距離感

 米国・イスラエルによるミサイル爆撃によってイランの最高指導者ハメネイ師が殺害された。ロシア外務省は即日に声明を発表し、イランへの攻撃を「主権国家に対する意図的かつ計画的な武力侵略行為であり、国際法の基本原則及び規範に違反する」とその攻撃を批判した。さらに、プーチン大統領は翌3月1日に、「ハメネイ師とその家族が道徳および国際法の規範を踏みにじる形で殺害されたことに対して深い哀悼の意を表する」と弔意を表明した。2025年1月にロシアはイランと包括的戦略的パートナーシップ条約を締結しており(軍事同盟として共に戦う条項はない)、友好関係にあるロシアがハメネイ師の死に対して哀悼の意を表明することは自然な流れである。その一方でイランへの支援(の表明)には慎重だった。

 3月2日には、むしろ、イランから攻撃を受けたUAE、バーレーン、サウジアラビアの首脳と電話会談を実施。ムハンマド・サウジアラビア皇太子との会談で「この極めて危険な状況を政治的・外交的手段で解決することが急務である」などと述べ、イランを直接批判することはなかったものの、中東諸国への気遣いを見せた。

 そんなプーチン大統領が、イランのペゼシュキアン大統領と電話会談したのは攻撃から1週間が経過した3月6日のことであった。プーチン大統領は先頭の即時停止、問題解決における武力手段の放棄、政治的・外交的解決の道へ立ち戻ることなどの原則的立場を表明し、今後もイランと連絡を継続していくことで合意した。ここでも、イランとの連帯こそ表明したものの、明確な支援に触れることはなかった。

 

石油ガス価格の高騰を有効活用

 ロシアがイランに対してやや距離を置くような対応をとる背景には、米国との関係も悪化させることができないという理由が考えられる。プーチン大統領は3月9日にトランプ米大統領と電話会談を実施。会談後、トランプ大統領は固有名詞こそ挙げなかったものの、石油価格引き下げのために「特定の国々」に対する石油制裁の一部を解除し、「平和が回復すれば」制裁を再開しないと約束した(コメルサント、2026.3.10)。米ロ首脳による電話会談当日、原油価格は1バレル=119ドルを超え、2022年以来の高値に急騰した。

 一方のロシアは中東で紛争が続くことによって、生じる不安定な世界のエネルギー情勢をロシアにとって有利な形で活用したいという考えがすでに明らかになっている。3月9日に世界の石油ガス市場に関わる臨時会合を開催したプーチン大統領は、中東情勢の緊迫化の影響およびホルムズ海峡を通じたエネルギー供給のリスクについて言及し、一時的に資源価格が高騰する可能性について触れ、ロシアのエネルギー企業に対して、(中東情勢の緊迫化に伴う石油ガス価格が高騰している)この現況を有利に活用して、追加の輸出収入を債務返済に充てるべきだと発言した。そして、欧州が長期的かつ政治的な安定を提供するならば、ロシアは協力する用意があるが、欧州が「ロシアへの扉を閉ざす」のであれば、より魅力的な供給先に供給量をシフトする必要があるとも述べ、強気の姿勢を明らかにした。(コメルサント、2026.3.9)。

 価格高騰は一時的なもので短期的な利益に終わる可能性があるとしても、この展開がロシアに有益であるということは政府高官だけでなく、専門家のあいだでも共通認識として挙げられる。特に米国との関係からロシア産原油の輸入を縮小させる可能性が高いとみられていたインドがロシア産原油の利用を再び拡大する可能性が高まっていると考えられている。また、イラン産ガスを供給しているトルコもロシア産ガスの購入を増やし始める可能性があると考えられている。

  このように、イランをめぐる中東情勢は今のところロシアに有利にはたらくという見方が強い。特に、資源価格の高騰はロシア経済に利益をもたらすことは間違いない。しかし、紛争の構図が「米国・イスラエル対イラン・ロシア」へと展開した場合には、ロシアにとって不利益を被る可能性が高く、大々的にイランを支援することはできない。こうした状況の中で、今後、ロシアがどのような対応をしていくのか、また、世界の注目が中東に向かう中で、ロシア・ウクライナ戦争の行方がどうなるのか、引き続き、注目していく必要がある。

以上 

(脱稿日:2026年3月11日) 

 

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