2023年度外交・安全保障事業
- NEWコメンタリー
- 公開日:2026/03/11
「イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から⑧」アフガニスタン・パキスタン軍事衝突の視角から
MEIJコメンタリーNo.19
【イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から⑧】
2026年2月28日に発生した米国・イスラエルによる対イラン攻撃と、その後のイランによる報復攻撃を受け、中東情勢は一段と緊迫している。こうした事態を踏まえ、本連続コメンタリーでは、「イラン情勢を俯瞰する――中東ユーラシアの視点から」を主題として、研究会の各委員がそれぞれの専門地域・専門分野から今回の情勢を分析し、その背景と影響を考察する。
「アフガニスタン・パキスタン軍事衝突の視角から」
元国連アフガニスタン支援ミッション 政務官 青木 健太
米・イスラエルによるハーメネイー最高指導者殺害を含む大規模攻撃を受けて、イラン情勢が緊迫化し、地域全体に影響を及ぼしている。こうした事態の背景と今後の見通しについては、他の共同研究者らによるコメンタリーで議論がなされている。本稿では、イラン情勢の緊迫化と並行して発生したアフガニスタン・パキスタン間の軍事衝突に焦点を当て、その後景と影響について考えてみたい。
アフガニスタンへの越境攻撃を実行したパキスタン
パキスタン軍は、2026年2月27日未明にアフガニスタンの首都カブール、南部カンダハール、南東部パクティカー州に空爆を行った。それに先立って、パキスタン領内での治安事件が相次いで発生しており、21日にはパキスタン軍がアフガニスタン東部ナンガルハール州、パクティカー州、ホースト州に報復として越境攻撃を行っていた。26日にはアフガニスタンのターリバーンが反撃していたことから、攻撃の応酬が次第にエスカレートしていった様子がわかる。
パキスタンのアーシフ国防相は27日、自身のXに堪忍袋の緒が切れつつあると述べ、両国は「開戦」状態にあると投稿した。パキスタン軍がアフガニスタンの主権、独立、領土の一体性を脅かす軍事行動(首都爆撃を含む)に踏み切ったことからみても、同国がターリバーンに持つ不満が如何に大きいかがわかる。
パキスタンは、ターリバーンが、パキスタン国内で治安事案を引き起こすパキスタン・ターリバーン運動(TTP)を筆頭とする武装勢力を匿っていると主張しており、そうした態度を改めさせたいと考えている。ターリバーンは米国と締結したドーハ合意に基づき、自国の領土を他国に危害を加えるために使用させないと約束していた。パキスタンから見れば、ターリバーンの国際合意違反というわけだ。
印パ代理戦争としての側面
今次のパキスタンによる越境攻撃の要因を、前述のようなアフガニスタンの不充分なテロ対策に求めることは理に適っている。その一方で、アーシフ国防相は『フランス24』へのインタビュー(2026年2月18日)において、「インドがアフガニスタンと協力して代理戦争を仕掛けている」とも述べた。パキスタン軍高官が、アフガニスタンの文脈で、インドに対する不満を述べた点は重要である。
2021年8月15日にターリバーンが再び実権を掌握して以降、同勢力は一国の実効支配主体としての自信を徐々に深めていった。現状、アフガニスタン国内でターリバーンの一強支配を脅かす主体は存在しないといえる。
そうしたなか、パキスタンは、ターリバーンがインドとの関係を深化させてきたことに不満を募らせてきた。実際、2025年10月、ターリバーンのモッタキー外相代行はインドを訪問、ジャイシャンカル外相との会談を含めた5日間の外遊を行い、インドとの蜜月関係を鮮明に打ち出した。
歴史的にみて、アフガニスタンは常に大国の利害に翻弄されてきたきた。アフガニスタンがインドと過度の接近を図った反動で、インド・パキスタン対立の代理戦争を担わされているとみるのは自然なことである。この意味で、パキスタン軍部は、ターリバーンのテロ対策への姿勢のみならず、インド偏重の外交政策をも変えさせたいと思っている可能性がある。
今後の展開
緊張高まるイラン情勢は、アフガニスタン・パキスタン紛争にも影を落としている。昨年10月以降、両国の一時停戦協議の仲介役を務めたのはカタル、サウジアラビア、トルコだった。しかし、イランからの反撃を受けてカタルとサウジアラビアについてはアフガニスタン・パキスタン間の緊張緩和に力を振り向けることが困難な状態となっている。
両国に制約がある状況においては、南西アジアの緊張緩和で頭角を現すのはトルコとなるかもしれない。
パキスタンは、サウジアラビアとの間で相互防衛協定を結んでもいる。次に何が起こるかわからない不確実性が増すなか、米・イスラエルの攻撃を受けたイランを教訓とするならば、サウジアラビアにとって核保有国パキスタンとの軍事協力の重要性は高い。一方の経済難にあるパキスタンにとっても、サウジアラビアとの軍事・政治・経済的関係強化には大きな意義がある。
そのように考えると、南西アジア地域の一角において、サウジアラビアとトルコの存在感が増していく可能性がある。イラン情勢は、湾岸だけではなく、南西アジアにも多大なる影響を及ぼしている。
以上
(脱稿日:(日本時間)2026年3月11日午前11時)
筆者略歴
青木 健太(あおき けんた)
元国連アフガニスタン支援ミッション政務官。専門は現代アフガニスタン・イラン政治。アアフガニスタン政府地方復興開発省・国連開発計画(UNDP)DIAG調整官、在アフガニスタン日本国大使館二等書記官、外務省国際情報統括官組織専門分析員、お茶の水女子大学講師、中東調査会研究主幹等を歴任。著作に、『タリバン台頭』(岩波書店、2022年)、『アフガニスタンの素顔』(光文社、2023年)、『中東ユーラシアから世界を読む』(岩波書店、2025年、共編著)他。







.png)
