調査研究 政策提言

2023年度外交・安全保障事業

  • コメンタリー
  • 公開日:2026/03/10

「イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から⑦」ガザ情勢との係わりに着目して

 MEIJコメンタリーNo.18

【イラン情勢を俯瞰する――中東ユーラシアの視点から⑦】 

 2026年2月28日に発生した米国・イスラエルによる対イラン攻撃と、その後のイランによる報復攻撃を受け、中東情勢は一段と緊迫している。こうした事態を踏まえ、本連続コメンタリーでは、「イラン情勢を俯瞰する――中東ユーラシアの視点から」を主題として、研究会の各委員がそれぞれの専門地域・専門分野から今回の情勢を分析し、その背景と影響を考察する。

「ガザ情勢との係わりに着目して」

防衛大学校 人文社会科学群 国際関係学科 准教授 江﨑 智絵 

 

 ガザ戦争の勃発後、イスラエルとイランとの間には直接的な軍事衝突が生じ、2025年6月には12日間に及ぶ戦争(以下、12日間戦争)の勃発へと至った。この12日間戦争においてイスラエルは、イランの軍・治安関係者への標的殺害、軍事施設および核関連施設の破壊を行い、イランに相応の打撃を与えた。しかし、国民の間には、イランにイスラーム体制が存続する限りイスラエルにとっての脅威は消えず、ましてや12日間という期間はそれに対処するには短すぎる、という認識が醸成された。

 今回の攻撃には、イスラエル社会に漂っていたこうした心理的背景もある。2026年3月4日に発表されたイスラエル民主主義研究所(The Israel Democracy Institute)の世論調査では、対象となったユダヤ人の97%が今回の対イラン攻撃(戦争)を支持すると回答した[1]

 こうしたイスラエル側の事情に鑑みても、2026年2月28日に発生した対イラン攻撃を特徴付ける最大の点は、イスラエルと米国が初めて合同で軍事作戦を実施したということに尽きよう。イスラエルと米国が対等なパートナーとしてこの戦争を遂行しているという点は、戦争の終結時期について米国のトランプ大統領がイスラエルのネタニヤフ首相とともに決断すると述べたことにもうかがわれる[2]

 12日間戦争において米国は、その終盤に、単独でイランの核関連施設を攻撃する形で介入するに留まった。なぜ今回は、イスラエルと米国が合同でイランを攻撃したのであろうか。

 12日間戦争および今回の対イラン攻撃のいずれに際しても、ネタニヤフ首相はトランプ大統領に参戦を強力に要請し、後押ししてきたとされている。しかしイスラエルは、12日間戦争に米国が参戦するのか否か、最後の段階まで確信を持てなかったとの見解もある。今回の対イラン攻撃についてネタニヤフ首相は、2025年12月末に訪米した際、トランプ大統領に対してイスラエルが近くイランを攻撃する予定であるとして承認を求めていた。つまり、2つの対イラン攻撃に関し、イスラエル側の行動にはさほどの変化がみられないのである。

 そのため、イスラエルと米国による今回の対イラン攻撃の背景には、米国側の変化が誘因となっている可能性が高い。具体的には、2026年年明け早々に実施された米国によるベネズエラ攻撃が成功し、トランプ大統領が「力による平和」に自信をつけたことが追い風となったとされている[3]。12日間戦争における米国の行動もこの点で一定の説明ができよう。低コストで派手な勝利を好むとされるトランプ大統領には、イスラエルが自力である程度の成果を出したことが判明し、米国の勝利を確信できるまでは、イランを攻撃することに旨味を見出していなかったと捉えられるからである。

 次に、今回の対イラン攻撃の特徴として、イランの体制転換がその目的として明示されていることも指摘できよう。イスラエルにとって急進的なイスラーム体制を敷くイランは、ハマースなどを支援する「テロ支援国家」であるとともに、核開発によってイスラエルの消滅を目論んでいる脅威と映る。12日間戦争においてイスラエルの攻撃は、イランの核開発関連施設および専門家らに集中した。その中には、軍事司令官30名や原子力分野の科学者19名なども含まれたが、結果的にイランの政治体制の存続を左右し得る宗教的人物は対象から除外されていた[4]

 しかし今回、イスラエルは対イラン攻撃の第一段階で、ハーメネイー最高指導者を殺害した。イスラエルは、イランの能力を削ぐ好機が到来したとして、政権の崩壊まで攻撃の手を緩めないとの姿勢を示している。米国にもこうした立場は共有されている。

 最後に特筆しておきたいのは、先制攻撃であるという点である。今回の対イラン攻撃に限ったことではないが、2023年10月7日に発生したハマースによるイスラエル襲撃事件(以下、10.7事件)の発生に伴うイスラエル側の変化といえるからである。

 それまでのハマースに対するイスラエルの政策は、「草刈り戦略」といわれるものに代表されるように、問題が発生したら被った打撃以上の報復を行う、という受け身の姿勢であった。イスラエルがハマースの脅威を低下していると見積もっていたことが背景にある。ハマースによるイスラエル攻撃を御伽噺と一蹴できていた10.7事件の発生前においては、仮に攻撃を受けてもそれは許容できるコストであったのであろう。しかし、10.7事件の発生を機にイスラエルは、その悲劇が二度と繰り返されないように脅威の発現を徹底して回避しようとした。そのために、あらためて先制攻撃をしかけるようになったのである。

 こうした中で懸念されるのは、国際的な耳目がイラン情勢に集中し、ガザ情勢を中心とするパレスチナ問題が忘れられていく一方、それゆえに、イスラエルがパレスチナ問題に関わる現状を自身に有利な方向へと変更できることに歯止めをかけられないと思われることである。これを今回のイラン攻撃に隠された目的、というべきかもしれない。

 具体的には、まず、2025年10月に発効した停戦合意に基づきイスラエル軍が撤退した領域と引き続きイスラエルが駐留する領域との区分線であるイエローラインがガザ地区とイスラエルを分け隔てる境界戦として固定化される恐れがある。ガザ和平計画の第2段階には進展がなく、イスラエル軍に更なる撤退を促す契機が生まれにくい。

 また、ヨルダン川西岸地区(西岸)に係る動きにもそうした側面を見出せる。西岸にはイスラエルとの和平合意で発足したパレスチナ自治政府が統治する区画と、イスラエル軍が占領する区画が混在している。和平交渉では、イスラエル軍が西岸の一部から撤退し、その領域がパレスチナに返還されてきた。しかし、交渉は長らく実施されておらず、そうした中では領土がパレスチナ側に返還される見通しは暗い。イスラエル側が管轄する領域ではユダヤ人入植地の建設が継続・拡大され、イスラエルが領土を実質的に併合する動きが加速している。ユダヤ人入植者によるパレスチナ人への攻撃も後を絶たない。

 今回の対イラン攻撃は、ガザ戦争の勃発によって惹起された中東における戦略環境の変化の一部である。こうした点を考慮しながら、地域的な安定の創出に向けた青写真が描かれなければならないであろう。

(脱稿日:2026年3月10日)

[1] Tamar Hermann, Lior Yohanani and Yaron Kaplan, “Special Survey: Overwhelming Majority of Jews (93%); Minority of Arabs (26%) Support Operation in Iran (total sample: 82%),” The Israel Democracy Institute, March 4, 2026,

https://en.idi.org.il/articles/63617.

[2] Jacob Magid, “Trump to Times of Israel: It’ll Be a ‘Mutual’ Decision with Netanyahu Regarding When Iran War Ends,” The Times of Israel, March 8, 2026.

[3] Mark MazzettiJulian E. BarnesTyler PagerEdward WongEric Schmitt and Ronen Bergman, “How Trump Decided to Go to War,” The New York Times, March 2, 2026.

[4] John Raine, “How 12 Days Have Changed Iran,” International Institute for Strategic Studies, July 23, 2025, https://www.iiss.org/ja-JP/online-analysis/online-analysis/2025/07/how-12-days-have-changed-iran/.

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