2023年度外交・安全保障事業
- コメンタリー
- 公開日:2026/03/09
「イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から④」アメリカのイラン攻撃をめぐる中国の衝撃と思惑
MEIJコメンタリーNo.15
【イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から④】
2026年2月28日に発生した米国・イスラエルによる対イラン攻撃と、その後のイランによる報復攻撃を受け、中東情勢は一段と緊迫している。こうした事態を踏まえ、本連続コメンタリーでは、「イラン情勢を俯瞰する――中東ユーラシアの視点から」を主題として、研究会の各委員がそれぞれの専門地域・専門分野から今回の情勢を分析し、その背景と影響を考察する。
「アメリカのイラン攻撃をめぐる中国の衝撃と思惑」
駒澤大学法学部 教授 三船 恵美
中国は、わずか8週間足らずの短い間に、中国への依存度が極めて高い2つの「反米」のパートナーを失うことになった。1月3日の米軍特殊部隊によるニコラス・マドゥロの拘束に続き、2月28日には、アメリカとイスラエルによる空爆作戦で、イランのセイエド・アリー・ハメネイ師最高指導者が死亡した。
中国はイランと、2021年3月に、25年間にわたり経済や安全保障などの分野で連携を深める包括協定を締結した。しかし、2月28日の攻撃以降、中国はイランの主権を口頭で「支持」しつつも、安全保障面での実効性ある「支援」については慎重な姿勢を崩していない。
イランに対するアメリカの「壮絶な怒り作戦」を中国はどのように受け止めているのであろうか。また、この軍事作戦は中国にどのような影響を及ぼすのであろうか。
「主権侵害」に強い批判も、米大統領訪中にも「配慮」を見せる中国
2月28日以降のイラン情勢をめぐり、全国人民代表大会(全人代)中の3月8日、王毅中共中央政治局委員・外交部部長は、「本来起こるべきではなかった戦争であり、いずれの国にとっても益のない戦争」と語り、カラー革命や政権転覆を企む者を批判した。また、王氏は「イラン及び中東に堅持すべき5つの基本原則」として、①国家主権の尊重、②武力濫用の禁止、③内政不干渉の堅持、④政治的解決の堅持、⑤大国の建設的な役割、を挙げた。
とは言え、全人代が開幕した3月5日の政府活動報告で、李強首相が「覇権主義やパワー・ポリティクスに反対し、あらゆる形態の一国主義、保護主義に反対する」との事前に配布されていた文言を読み飛ばしたことから、3月31日~4月2日に予定されているアメリカのドナルド・トランプ大統領の訪中への「一定の配慮」が見て取れた。
制裁価格の原油とUAEのハブ機能
近年、中国はイランからの輸出原油の8割以上を購入している。これは中国の海上輸入量の約13%に相当するが、「実際の輸入量」はそれよりも多いと推測されている。西側からの制裁回避のため、瀬取りで「マレーシア産」などのラベルに張り替えられているからである。2025年の中国の原油輸入量の約3割が、制裁対象となっている国からの供給であった。僅か2ヶ月の間で中国は「国際価格よりも大幅に安い原油」のうち2つのルートからの石油を失うことになった。しかも、2025年の中国の原油輸入の約4割が中東湾岸諸国からの輸入であり、ホルムズ海峡経由で中国に輸入される原油は56%であった。
ホルムズ海峡が実質的に封鎖されたことにより中国が受けた打撃は、エネルギー戦略だけではない。UAEの主要港は、「一帯一路」の重要なハブである。ドバイのジュベル・アリ港とは、中国が2025年10月に発表した「グリーン海運回廊国際協力イニシアチブ」の一環として、グリーン海運回廊の構築を推進していくことになっている。
中東における軍事衝突は、中国の経済安全保障に大きな衝撃を与えている。
アメリカが中国に見せつけた圧倒的な軍事力
米軍の圧倒的な軍事攻撃の「標的」は、イランだけではない。イラン以外のCRINKの中国・ロシア・北朝鮮への警告であることを、中国側も認識していることであろう。
1月のベネズエラ、2月のイラン空爆の両作戦において、レーダーや通信を妨害・無力化する米軍のEA18Gグラウラー電子戦機が作戦を支えた。イランが導入したHQ9BミサイルやYLC8Bレーダー、さらには、北斗衛星測位システムといった中国が支援した防空システムは米軍の電子戦下では対応困難であることが露呈した。
また、3月4日には、インド海軍主催の多国間共同演習「MILAN 2026」からの帰路に就いていたイラン軍艦が、スリランカ南部沖の公海で米潜水艦の魚雷によって撃沈された。紛争の地理的範囲がもはやペルシャ湾周辺に限定されないことが世界に誇示され、中国やインドにも向けたメッセージであったことを、中国も読み取ったであろう。
イラン情勢をめぐる中国の思惑
とは言え、イラン情勢は中国に衝撃を与えた一方、戦略的機会をも創出している。
アメリカの軍事リソースが再び中東へ引き戻され、台湾海峡や南シナ海における米軍の抑止力が相対的に低下している。米軍が高額な迎撃ミサイルをイランに対して消費していけば、それはアメリカの軍事予算を圧迫していくことになる。中東がさらに泥沼化していけば、中国がアジアにおける地政学的な目標をより少ない抵抗で追求する事態を招きかねない。
アメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、中国がこれまでイランへ支援してきた防空レーダーやドローン技術についての「実戦データ」が収集できる絶好の機会となっている。米軍がイランやベネズエラの作戦で使用したジャミング(電子妨害)やスプーフィング(電子欺瞞)を教訓に軍事システムを最適化していくことで、中国が将来的な米中衝突への備えを固める機会となっている。
このイランをめぐる戦争が長引けば、ドローン用モーターのネオジム、ジスプロジウム、テルビウム、ミサイルの誘導装置に使われるサマリウムなどのレアアースや、赤外線センサーに使われるゲルマニウム、レーダーに使われるガリウムといった重要鉱物の大半を中国がコントロールしている現状が、中国がアメリカを揺さぶる強力な外交カードになると懸念される。
以上
(脱稿日:2026年3月8日)







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