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2023年度外交・安全保障事業

  • NEWコメンタリー
  • 公開日:2026/03/06

「イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から③」インドから見た米イスラエル・イラン戦争

MEIJコメンタリーNo.14

【イラン情勢を俯瞰する―中東ユーラシアの視点から③】

2026年2月28日に発生した米国・イスラエルによる対イラン攻撃と、その後のイランによる報復攻撃を受け、中東情勢は一段と緊迫している。こうした事態を踏まえ、本連続コメンタリーでは、「イラン情勢を俯瞰する――中東ユーラシアの視点から」を主題として、研究会の各委員がそれぞれの専門地域・専門分野から今回の情勢を分析し、その背景と影響を考察する。

 

岐阜女子大学 南アジア研究センター 特別客員准教授 笠井 亮平

 

インドから見た米イスラエル・イラン戦争 

 2月28日に始まった米・イスラエルによるイラン攻撃に対し、インドはどのような姿勢を示しているのか。また、今回の事態はインドにどのような影響をもたらすのか。

 モディ首相は3月1日、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領と電話会談を行った。イランを名指しこそしなかったものの、同国が反撃の中でUAEも標的にしていることについてモディ首相は、「UAEへの攻撃を強く非難し、こうした攻撃によって人命が失われたことに哀悼の意を表する」とXに投稿した。また、3月2日に行われた訪印中のカーニー・カナダ首相との首脳会談でもイラン情勢について協議され、モディ首相は今回の事態について「深く憂慮している」とした上で、「すべての関係国に対し抑制を示し、エスカレーションを回避し、民間人の安全を優先するよう呼びかける」、「緊張緩和と背景にある問題解決のために対話と外交を追求すべきだ」と語った(3日に行われたジャイスワル外務報道官のブリーフィング)。

 インドはこれまでのところ、米・イスラエルの軍事行動について具体的な言及はしていない。インドは対米関係を悪化させたくないだろうし、近年緊密化が進むイスラエルとの関係も損なうわけにはいかない(攻撃直前の2月26日にはモディ首相が国賓としてイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談していた)。

 一方、イランの反撃については、上記のとおりUAEの件に対する非難のみに止まっている。イランのアラグチ外相が2025年5月に訪印し、26年1月中旬にも再度の訪印が予定されていた(イラン国内情勢により取りやめ)ように、インドは同国とハイレベルの関係を維持してきた。インドはイラン東部に位置するチャーバハール港の開発・運営に関わっており、同港を中央アジアやアフガニスタンへのアクセスに活用しようとしている。インドとしてはチャーバハール港の戦略的重要性と自国にとっての利益を踏まえ、全面的な非難には踏み込みたくないという判断があったのではないかと思われる。

 今回の事態がインドに具体的な影響を及ぼしうる分野としては、「エネルギー」と「人」、「資金」が挙げられる。

 インドは原油の約8割を輸入に頼っており、そのうち約55%を中東から調達している。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、インドはロシアから原油を大量に輸入してきた。しかし、これを問題視した米トランプ政権との協議を経て、最近になって輸入量は大幅に減少している。その埋め合わせとして米国やベネズエラからの輸入が取り沙汰されているが、サウジアラビアやイラクからの輸入が急増していた。それだけに、ホルムズ海峡の封鎖による影響は不可避だ。カタルからの天然ガス供給にもすでに支障が出ている。

 湾岸は、インド人が多く住む地域でもある。インド外務省ウェブサイトによると、在外インド人は世界全体で3,542万人に上る(NRIと呼ばれる在外インド人に加え、現地の国籍を取得したPIOと呼ばれるカテゴリーも含んだ数字)。このうち、イランの在住者は1万人余りにすぎないものの、UAEに約357万人、サウジアラビアに約246万人、カタルに約84万人、クウェートに約100万人と、他の域内国も合わせると湾岸地域全体で約890万人にもなる。在外インド人の4人に1人がこの地域に集中している計算だ。彼らの安全確保はインド国内でも関心が高い。

 加えて、この地域の在外インド人の関係では、経済面で影響が出ることも懸念される。2024年度の海外からインドへ送金額は、1,355億ドルに達している。これはインドのGDPの約3.4%に相当し、決して無視できない規模だ。このうち約4割が湾岸地域からとされる。かつて1991年にイラクのクウェート侵攻に端を発する湾岸戦争が起きた際には、インド人出稼ぎ労働者からの本国送金が急減し、インドで経済危機を引き起こしたこともあった。

 これらのいずれも、米・イスラエルとイランの紛争が長期化すればするほど状況が深刻化し、影響が拡大しかねない。インドが外交面で何らかのアクションを起こすかも含め、今後の事態の推移を注視していく必要がある。

以上

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