№40 イラン:米国との戦争終結で合意
- NEW2026イランイスラエル湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2026/06/15
イラン時間2026年6月15日未明、イランの安保・外交政策の最終意思決定機関である国家安全保障最高評議会(SNSC)は声明で、イランと米国との間で行われてきた「戦争終結交渉についての了解覚書」が、14日夜に最終的にまとまったと発表した。6月19日に(パキスタンのシャリーフ首相によるとスイスで)了解覚書の正式な署名が行われる予定だという。
SNSCの発表では、今回の合意により、レバノンを含む全ての戦線での戦闘行為が「今夜」から即時かつ永続的に終結し、イランに対する海上封鎖も完全に解かれるという。この発表には、トランプ米大統領が自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で指摘していた「通航料なしのホルムズ海峡の開放」についての記述はない。
トランプ大統領やシャリーフ首相は、今回の合意をイラン・米国間の「和平合意(ディール)」と呼んでいるが、SNSCの発表によると、「最終的な合意に向けた交渉は、了解覚書に則った双方のコミットメントの履行後に委ねられる」とのことで、この「最終的な合意」が不調に終われば、双方の対立が再燃する可能性もある。
SNSCの発表では「了解覚書」の内容は詳らかではないが、3日前(12日)に『イラン国営通信(IRNA)』はイランと米国との間で交わされる可能性のある合意の内容について、以下のように報じていた。
(1)米国との和平合意には核問題に関する合意は一切なく、同問題は合意署名後60日間の核交渉に委ねられる。イランの現時点での約束は、核兵器の開発は行わないということのみである。
(2)和平合意の中で、ホルムズ海峡の管理や同海峡の戦争前の状況への回復について、イランは一切コミットしていない。合意で言及されるのは、ホルムズ海峡の通航の正常化、沿岸諸国による海洋の安全確立、及び米国・イスラエルによる海上封鎖の終了である。ホルムズ海峡の今後のあり方については、合意後の(米国との)交渉でも扱われず、イランはオマーンとの話し合いの中で、この問題を解決する。
(3)和平合意には、イランだけでなく、レバノンを含むすべての戦線での戦争の終結が含まれる。
(4)合意署名と同時に、イラン資産の凍結解除に向けた明瞭なプロセスが考慮される。イランは、明確な仕組みに基づく凍結資産の解除のための確たる保証を受け取っており、和平合意への署名後、一部の凍結資産は即時に、残りについては交渉の過程で漸次、解除される。
(5)イランは、戦争賠償金の支払いの必要性を強調しているが、その実効的な仕組みについては、合意後の60日間の交渉で決まる。イランは、賠償金の受け取りに関する確たる保証を、第三者から得ている。
(6)イランは、米国単独によるものであれ、国際的な決議によるものであれ、自国に対して科されているすべての制裁の解除を求めているが、米国はありうべき合意の中で、制裁の解除について確たるコミットをしていない。この問題は60日間の交渉に委ねられる。
同日、保守系の『メフル』通信も、イラン・米国間の合意草案の詳細について、以下の14項目を列挙している。(1)レバノンを含むすべての戦線での戦闘の即時かつ恒久的な停止、(2)米国によるイラン内政への不干渉、(3)30日以内の海上封鎖の解除、(4)イラン周辺からの米軍撤退を米国が約束すること、(5)イランのやり方での30日以内のホルムズ海峡の開放、(6)石油や石油化学製品に対する制裁解除、(7)米国及びその同盟国による、最低でも3000億ドル規模のイラン復興計画の提出、(8)核問題や米国・国連安保理による対イラン制裁解除で最終合意するための60日間の交渉、(9)核不拡散条約(NPT)におけるイランの義務の確認、(10)交渉期間中、米国は地域に追加で派兵したり、新たな制裁を科したりしないこと、(11)60日間の交渉期間中に240億ドルのイラン凍結資産を解除すること、そのうちの半分は交渉の開始前にイランがアクセスできるようにすること、(12)合意実行のための監視システムの設置、(13)国連安保理決議での最終合意の確認、(14)最終合意は、濃縮ウランやウラン濃縮活動の今後のあり方、制裁解除、イラン経済の復興についてのみ行われ、イランのミサイル計画や親イラン民兵組織への支援についてはアジェンダから外されること。
『メフル』通信の報道の真偽はともかく、『イラン国営通信』の報道を見る限り、明確に合意されたのはホルムズ海峡の船舶の通航の正常化と米国による海上封鎖の解除、そしてあらゆる戦線での戦闘の終了の3点であり、それ以外の懸案事項は「了解覚書」の合意後の話し合いにその解決が委ねられている。
評価
イラン国内では、今回の合意に対する不満が一部から挙がっている。合意が近いと伝えられた6月13日、テヘランや(故ハーメネイー前最高指導者の生地)マシュハドでは「(終末の時に再臨する)『時のイマーム』、殉教した指導者(故ハーメネイー師)、そして現指導者(モジタバー師)はこの合意に同意しているのか」などのプラカードを掲げた抗議活動が行われた。「ガーリーバーフよ、アラーグチーよ、我が指導者が流した血はどこに」、「アラーグチーよ、恥を知れ。国政から手を引け」といったシュプレヒコールも叫ばれ、米国との和平を進める両者が非難の矢面に立たされた。
一部の抗議集会では、最強硬派でガーリーバーフ国会議長に批判的な「革命永続戦線」に関係する国会議員らも参加し、ある国会議員からはアラーグチー外相だけでなく、ペゼシュキヤーン大統領の弾劾・罷免を求める発言も飛び出した。こうした動きに対し、ペゼシュキヤーン大統領は、和平交渉は(モジタバー)最高指導者の認可を受けたものだとし、国益のために働いている者たちを「裏切り者」「売国奴」とレッテル貼りをする一部の流れを非難した。ガーリーバーフ国会議長に近い新聞も14日、「国の団結を乱す者たちがうごめいている」と非難する記事を掲載している。
SNSCの声明を伝える革命防衛隊に近い『ファールス』通信の記事のコメント欄には、「騙されている」、「殉教した指導者の血を踏みにじっている」など、和平合意を非難するコメントが多数寄せられている。SNSCが「戦争終結交渉についての了解覚書」で米国と合意したと慎重に表現しているのも、米国との具体的な和平の中身を先延ばしにして国内強硬派の反発をかわすためであろう。「了解覚書」を結ぶのも容易ではない国内事情を考えると、今後イラン・米国双方にとって納得のいくような「最終合意」に至るまでは、たとえそれが可能だとしても、極めて困難な道のりが待っているように思われる。
【参考】
「イラン:米軍との間で2日連続の軍事衝突」『中東かわら版』No.38。
(研究主幹 斎藤 正道)
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