№39 イスラエル・パレスチナ:入植者が礼拝者のいるモスクを襲撃
ヨルダン川西岸地区における入植者の暴力が深刻化する一方、その暴力をめぐっては、イスラエル国内においても認識のズレが生じている。
2026年6月14日、パレスチナの国営通信社『WAFA』は、イスラエル人入植者が西岸地区のラーマッラー東部のブルカ村を襲撃し、モスクの近くに駐車されていた車両に放火し、モスクにも火を点けようとしたと報じた。イスラエルの『Times of Israel』の報じるところでは、モスクの中には礼拝者がおり、火はモスクの入口から内部に広がる前に彼らの手によって消火された。
これに先立ち、11日付のパレスチナ・メディア『al-Quds』は、ラーマッラーの東部に位置するキリスト教徒の町、タイベで入植者による大規模な襲撃があったと報じた。同メディアによれば、襲撃中、住民に向けて3度実弾が発砲され、また農地が放火され大規模な火災が発生した。同紙によれば、入植者たちは消火活動にあたる若者に対しても暴行を行った。
12日付の『al-Quds』は、死傷者または物的被害を伴う入植者による1日あたりの攻撃発生件数が6件に達し、過去最高の発生件数となっていると報じた。そして、この数字は、攻撃がイスラエル当局の保護または黙認の下で行われていることを示すものであると指摘した。
他方、3日付のイスラエル・メディアの『Israel Hayom』は、ユダヤ・サマリア地方(※イスラエルにおける西岸地区の呼称)における入植者暴力について、教育制度から脱落した少数の若者たちが思春期のエネルギーを発散させている問題であるとの見方を示した。また同紙は、そのような若者を「テロリストでも犯罪者でもなく、むしろどこか迷い、深く反抗的な若者たち」であると表現した。さらに、彼らが国家の大義のために生きる一方で、近隣のアラブ人住民に対して容認しがたい暴力を振るうことがあるとし、教育的対応が必要だと主張した。
評価
パレスチナ人にとって、ブルカ村で起きたモスク放火未遂事件も、タイベにおける農地の放火も、一歩間違えれば多数の住民を巻き込む「テロ行為」である。イスラエルの『Times of Israel』も、入植者による暴力を容認できないものとして報じる傾向がある。ブルカ村での放火未遂を報じた記事では、西岸地区で入植者による暴力が凶悪化する一方、政府は攻撃を黙認していると批判されており、入植者の逮捕は稀で、起訴はさらに少ないと指摘した。
また、5月1日付の同紙は、西岸地区担当のイスラエル高官が、入植者暴力を「ユダヤ人テロ」と表現し、それがパレスチナ人の蜂起を引き起こす可能性があると警告したと報じた。さらに5月14日付の記事では、IDFの将校が、西岸地区でイスラエル軍が対応している事件の最大80%が、パレスチナ人に対するユダヤ人による攻撃、あるいはユダヤ人テロであるとネタニヤフ首相に説明したと報じている。
一方、イスラエルの『Israel Hayom』は入植者、特に若者によるパレスチナ人への暴力を「テロ」として、あるいは法執行の不均衡やパレスチナ人に対する差別の問題としてではなく、イスラエル国内の教育問題に矮小化しようとする姿勢を示している。また、同紙がパレスチナ人に暴力をふるう若者を「国家の大義のため」に生きていると表現していることも見逃せない。同紙は、彼らの暴力を容認しがたいものとしつつも、その行動を国家的使命感と結びついた若者の逸脱として描いている。このような視点から見ると、入植者による西岸地区でのモスク襲撃や、キリスト教徒が多く住む町タイベへの襲撃も、パレスチナ人が住む「西岸地区」を、ユダヤ人の歴史的・宗教的故地である「ユダヤ・サマリア」へと再定義しようとする入植運動の文脈と重なる。
『Israel Hayom』が示す見方は、『Times of Israel』に見られるような、入植者暴力を深刻な治安上の脅威として捉える立場とは異なっている。また、『Israel Hayom』の立場がイスラエル国民の大多数の意見を代表しているわけでもない。他方で、同紙はネタニヤフ政権に近いとされるメディアである。現在のネタニヤフ政権は、ユダヤ教超正統派政党に加え、パレスチナ人に対して強硬な姿勢を取る極右政党に支えられている。そのため、同紙の示す視点は、現在の政権支持基盤に近い政治勢力の認識を反映している可能性がある。
6月13日付のパレスチナの『al-Quds』は、ハマースの軍事部門であるカッサーム旅団の報道官の発言として、入植者による攻撃はパレスチナ人の抵抗へとつながり、爆発を引き起こすだろうと報じた。イスラエル国内の一部で見られる、西岸地区で深刻化する入植者暴力を相対化する言説は、西岸地区における新たな暴力の連鎖や、武力を伴う「抵抗」を誘発する可能性がある。
(主任研究員 平 寛多朗)
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