中東かわら版

№36 イスラエル:揺らぐネタニヤフ人気と連立維持政治

 イラン・レバノン情勢への対応をめぐり、ネタニヤフ政権に対するイスラエル国内の評価が揺らいでいる。一方で、ネタニヤフ首相は、連立政権を維持するため、超正統派政党等への譲歩を含む「取引」を続けている。

 2026年6月9日、イスラエル・メディアは、イスラエル民主主義研究所(IDI)が実施した世論調査を報じた。5月31日から6月5日にかけて実施された同調査では、「イスラエルの安全保障が米国のトランプ大統領にとって主要な考慮事項である」と考えるユダヤ系回答者が41%にとどまった。同研究所が3月に実施した調査では、この割合は64%であったため、トランプ大統領がイスラエルの安全保障を重視しているとのユダヤ系イスラエル人の評価は大きく低下したと言える。

 さらに、現在協議されている枠組み(※6月8日の攻撃の応酬以前)でイランとの紛争を終えることがイスラエルの安全保障上の利益にかなうとは考えない回答者は、全体の57.5%にのぼった。政府のヒズブッラー対応については、全体のわずか17.5%しか肯定的な回答をしなかった。

 またネタニヤフ首相の次期総選挙への出馬については、ユダヤ系回答者の57%が反対した。政治的立場別にみると、中道右派を自認する回答者の約3分の2が再出馬に反対した一方、右派を自認する回答者の69%は再出馬を支持した。

 同じく9日、『Jerusalem Post』は、立法閣僚委員会が、ユダヤ教超正統派政党が推進する「トーラー学習」を基本法に組み入れる法案を承認したと報じた。イスラエルでは単一の成文憲法に代わり、複数の基本法が実質的に憲法の役割を果たしている。トーラーとはユダヤ教の聖典であり、超正統派の神学生は、トーラー学習に専念することを理由に、建国以来、兵役を免除されてきた。しかし、2023年のガザ戦争以降、イスラエル軍は人員不足に直面しており、超正統派の兵役免除を見直すべきだとの声が強まっていた。2025年には、超正統派の神学生を徴兵する法案がクネセト(国会)に提出され、超正統派の一部から大きな反発が起きていた。

評価

 今般の、トーラー学習に関連する一連の動きは、クネセト早期解散を避けるための超正統派との「取引」とみられる。超正統派の政党は、クネセトで審議されている超正統派の神学生に対する「徴兵法」に関し、ネタニヤフ首相の対応に不満を抱いていた。そのような中、クネセトには解散法案が提出され、超正統派政党は、連立政権を支えてきたにもかかわらず、解散支持に回る構えを見せ、5月20日には解散法案が予備読会を通過していた。これは、解散を交渉カードとして、「徴兵法」を含む超正統派にとって有利な政策の実現をネタニヤフ首相に迫ったと考えられる。今般承認された「トーラー学習」は、長期のトーラー研究を国家への奉仕と位置づける条項が含まれているとみられる。ネタニヤフ首相は、クネセト解散の時期を自らに有利な形で調整する代わりに、超正統派に実質的な兵役免除維持を用意しようとしている。

 イスラエルでは、全国一区の比例代表制で選挙が行われるため、単一政党が過半数の議席を得ることは難しい。そのため、主要政党は連立を組むことで政権を担ってきた。連立政権を維持するためには、時に政権を支える小政党の要求を受け入れざるを得ない。次回選挙でネタニヤフ首相が政権を維持できるかは微妙であり、超正統派政党の離反は何としても避けたい状況にある。

 他方、政権維持の観点から見ると、政府のヒズブッラー対応への不満と、右派層によるネタニヤフ首相の再出馬支持は重要である。現在、ネタニヤフ首相は極右政党と連立を組んでおり、これらの政党はヒズブッラーへの強硬姿勢を崩していない。実際、6月8日付の『Jerusalem Post』は、極右政党の党首であるスモトリッチ財務相が、イランへの直接攻撃よりも、ベイルート南部のヒズブッラー関連施設を攻撃するべきだと主張したと報じている。

 ヨルダン川西岸地区でのイスラエル人入植者による暴力の増加も、この文脈で考える必要がある。6月9日付の『Jerusalem Post』は、国連の被占領パレスチナ地域に関する調査委員会が、ヨルダン川西岸の入植者による暴力行為をイスラエル当局が助長していると非難する報告書を発表したと報じた。現在、警察を管轄する国家安全保障相は、極右政党の党首であるベン・グヴィル氏が務めている。極右政党は西岸地区の併合を主張しており、ベン・グヴィル国家安全保障相やスモトリッチ財務相は、パレスチナ人に対する強硬姿勢を支持してきた。

 イラン情勢をめぐっては、ネタニヤフ首相の政治的余地は狭まりつつある。米国のトランプ大統領は、6月8日にイスラエル・イラン間の軍事衝突が生じた際、ネタニヤフ首相に対して自制を求めた。また、イスラエル国内でも、トランプ大統領がイスラエルの安全保障を最優先しているとの見方は低下している。このことは、ネタニヤフ首相が連立政権を維持するために対イラン攻撃を拡大するには、一定の政治的制約があることを示している。一方で、連立政権の維持を考えた場合、ネタニヤフ首相を支持する右派層が意識される中で、レバノンやヨルダン川西岸地区において、イスラエル側の暴力および強硬姿勢が維持・強化される可能性がある。

(主任研究員 平 寛多朗)

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