中東かわら版

№34 イラン:イスラエルとの停戦を発表

 6月8日夜、イラン軍の「ハータモル・アンビヤー中央基地」は声明で、イスラエルに対するイラン軍の作戦は停止されたと発表した。同基地は声明で、「抑圧されたレバノン国民への支援のために」、イスラエルに対して「痛恨の応答を与えた」とし、「これにより軍の作戦の停止を表明する」としつつ、「特にレバノン南部への侵略行為・悪事が続いた場合」は、これまで以上に激しい攻撃が行われるだろうと警告した。

 これに先立ち、トランプ米大統領はSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、イスラエル、イラン双方に即時の戦闘停止を呼びかけていた。

 他方、イスラエルのカッツ国防相は、ヒズブッラーに対する戦闘を継続するとした上で、イランに対し、レバノン問題に関わらないよう警告を発しており、イランとイスラエルの停戦は極めて脆弱であるように思われる。

 7日夜のイランによる対イスラエル攻撃へのイスラエルの反撃はイラン国内12カ所に及び、その中にはイランの防空システムに関わる施設に加え、イラン南西部フーゼスターン州マーフシャフルにある「カールーン石油化学」の工場が含まれていた。イスラエル軍によると、この石油化学工場は、弾道ミサイルの製造に欠くことのできない材料を生産していたという。同社は2002年創業の「ナレッジベース」企業で、同社によると、年間20万トン以上の石油化学製品を生産していた。

 イスラエルによるこれらの攻撃の報復として、革命防衛隊はイスラエルのネバティム空軍基地とテルノフ空軍基地、そしてハイファにある石油化学工場を攻撃したと発表するなど、双方の交戦がエスカレートする可能性があったが、イラン、イスラエル双方とも、攻撃によって死者は出ていないと発表しており、トランプ米大統領の呼びかけもあって、戦闘の拡大は防がれたようである。

 なお、今回のイラン・イスラエル間の軍事衝突を受け、イエメンのアンサールッラー(ホーシー派)もイスラエルにミサイル攻撃を行った。同派は声明で、紅海におけるイスラエル関連船舶の航行を「完全に禁止」すると表明している。

評価 

 ハータモル・アンビヤー中央基地の戦闘停止声明を報じた『ファールス』通信のネット記事のコメント欄には、「戦争の影がこの国と国民から遠ざかりますように」、「戦争が終わったことを、神に感謝」など、戦闘の拡大が防がれたことを歓迎する声がある一方で、「作戦停止の哲学が理解できない。‥‥戦争をするにしても、和平を結ぶにしても、相手側がその時期を決めているように思える」、「限定的な応答‥‥は、『攻撃せよ、イランは限定的な、すなわち計算された報復をする』というメッセージを(敵に)伝えるだけだ。(アリー・ハーメネイー最高指導者が殺害された)2月28日の出来事が繰り返されるだろう」、「トランプのツイートの後、作戦が停止って、どういうこと?」などと否定的な声も出ている。

 2月28日のイスラエルの攻撃で、それまで体制維持のために対立・紛争のエスカレーションの回避に意を尽くしてきたアリー・ハーメネイー最高指導者が殺害されたことで、イラン体制内には主戦論を抑え込んできた重石が取れ、以前よりも容易に戦争ができる政治的状況が生まれている。故ハーメネイー師を国父と敬う人々が、同師殺害の復讐として、あるいは息子で現最高指導者のモジタバー師の気持ちを忖度して、戦争の継続を訴える声が高まる可能性も高いように思われる。

 今回の戦闘停止は、米国との和平協議を葬り去るべきではないとの軍事的、経済的な観点からの現実主義的判断が、軍を含め、体制内で地歩を固めていることを示している。しかしそうした和平論も極めて脆弱な基盤の上で命脈を保っている。ペゼシュキヤーン大統領も8日付の『X』への投稿で、「我々の優先課題は、国の安全と国民の平穏である。力強く、国民の権利を守り、いかなる脅迫にも後退しない。外交と防衛は国力の両翼である。戦場を離れることも、交渉のテーブルを離れることもしない」と投稿し、米国との和平協議を慎重に進める姿勢を示している。

 こうした状況において、たとえ今後、米国との和平交渉が進められたとしても、国内にアピールできるような相応の見返りを米国から得られない限り、イランが米国に歩み寄ることは困難であろう。イランは今後も、米国から有利な和平条件を引き出すための「政治戦争」の手段として交渉を捉えることになる。そのような「交渉」は、互いに利益を共有するためではなく、自らの利益確保を相手側に認めさせるためのものとなり、遅々として進まない可能性がある。

【参考】

イラン:イスラエルに対して弾道ミサイル攻撃を実施」『中東かわら版』No.31。

(研究主幹 斎藤 正道)

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