中東かわら版

№33 アルジェリア:サハラ縦断ガスパイプライン着工と地域的影響力の再構築

 ここ最近、アルジェリアは、ニジェールを経由した西アフリカとのエネルギー連結を進めることで、地域における自国の影響力を再編・強化しようとしている。

 2026年6月3日、タブーン大統領は、ナイジェリアのエクポ石油資源担当国務相とニジェールのティニ石油相と会談し、サハラ縦断ガスパイプライン計画について協議した。会談には、パイプ建設計画に参加するソナトラック社のCEOも参加した。

 同日、ニジェールを訪問したガリーブ首相は、同国のチアニ大統領と会談した。その後、ニジェールの首都であるニアメで「アルジェリア・ニジェール連帯発電所」の開所式に参加した。アルジェリアの新聞『Chorouk』によれば、この発電所は発電能力40メガワットで、アルジェリアによるニジェールへの「贈り物」と位置づけられている。

 6月5日、『Chorouk』は、構想発表から約25年後、アルジェリアが自国領内を通過する全長1210キロメートルのサハラ縦断ガスパイプラインプロジェクトの建設工事を開始したと報じた。

 今般着工したのはニジェール国境からアルジェリア南西部のオウレフ地域をつなぐ全長1210kmのアルジェリア区間である。同区間はオウレフでハッシ・ルメル方面へ向かう既存パイプラインに接続され、さらにベニー・サーフまたはカーラ方面を通じて欧州向け輸出網につながる。これは1970年代に提案されたアルジェリア、ニジェール、ナイジェリアを縦断する全長約4000kmのサハラ縦断ガスパイプラインプロジェクトの一部となっている。完成すれば、同パイプラインは年間最大300億立方メートルのガスを欧州に供給する見込みとなっている。

(グーグルマップを元に筆者作成。赤線:予定されているサハラ縦断ガスパイプライン。青線:ベニー・サーフ方面のパイプライン。オレンジの線:カーラ方面のパイプライン。黄色の印:ハッシ・ルメル。)

評価 

 アルジェリアは、すでに欧州にとって主要なガス供給国であり、2024年には392億立方メートルのガスをEUに供給した。これはEU全体のガス輸入量の約14%に相当する。2026年2月以降のイスラエル・米国とイランの軍事衝突、およびホルムズ海峡の混乱を受け、欧州にとってアルジェリア産ガスの重要性は一段と高まっている。

 アルジェリアとしては、ニジェール経由でアフリカ最大級の天然ガス供給源であるナイジェリアと自国を結ぶサハラ縦断ガスパイプラインを実現することで、欧州向けエネルギー供給国としての地位をさらに強化したいものとみられる。実際、2026年6月2日の『Chorouk』は、中東情勢とホルムズ海峡の混乱により、アフリカのガスパイプラインの重要性が高まっているとの見方を報じている。今般のアルジェリア区間の着工は、長年構想段階にとどまってきた同パイプライン計画が実際に動き出したことを示すものであり、アルジェリアのエネルギー外交にとって大きな意味を持つとみられる。

 また、地域的影響力の強化という点も見逃すことができない。サハラ縦断ガスパイプラインと競合し得る構想としては、モロッコ・ナイジェリア・ガスパイプライン構想がある。同構想は、ナイジェリアから西アフリカの大西洋沿岸諸国を経由し、モロッコを通じて欧州へ天然ガスを輸出する計画であり、アルジェリアが進めるサハラ縦断ガスパイプラインとは、ナイジェリア産ガスを欧州市場へ輸送するルートをめぐって競合関係にある。

 さらに、アルジェリアは西サハラの独立を求めるポリサリオ戦線の主要な支援国であり、同問題等が要因の一つとなり、モロッコとの関係は長年緊張している。例えば、2026年4月30日付の『Chorouk』は、「アルジェリア、南アフリカでモロッコの策略を粉砕」と題する記事で、アフリカ議会の選挙をめぐり、モロッコ側がアルジェリアに対して妨害的な動きを行ったと報じている。

 また、今般のアルジェリア区間の着工に関しても、『Chorouk』は「モロッコ体制の夢への決定的な先制打撃」と題する記事を掲載し、モロッコ・ナイジェリア・ガスパイプライン構想を「架空のプロジェクト」と酷評している。

 このように、アルジェリアにとって今般の着工は、長年構想段階にとどまっていたサハラ縦断ガスパイプラインを現実化へ向けて動かすことで、ナイジェリアおよびニジェールとの関係を強化し、モロッコに対して地域的な影響力を確保するという意味でも重要であるとみられる。

 他方、アルジェリアのプロジェクトに不安がないわけではない。ニジェールとの国境を接するアルジェリア南部のイン・ゲザムではテロリストの摘発や大量の武器の押収が度々アルジェリア・メディアで報じられている。また、ニジェール南西部ではイスラーム過激派「イスラームとムスリム支援団」およびイスラーム国サヘル州が活動し、ナイジェリア北東部ではイスラーム国西アフリカ州やボコ・ハラム系勢力の活動が続いている。

 これらの組織の主たる活動地域は、サハラ縦断ガスパイプラインの予定ルートと必ずしも重なるわけではない。しかし、ニジェールやナイジェリアの治安情勢が悪化し、政情不安が拡大すれば、建設・運用・投資判断に影響が出る可能性は否定できない。そのためアルジェリアは、サハラ縦断ガスパイプラインを通じてエネルギー大国としての地位を強化するためにも、単にインフラ建設を進めるだけでなく、ニジェールやナイジェリアとの治安協力、国境管理、対テロ能力の強化を含む地域的関与を深めていくとみられる。

(主任研究員 平 寛多朗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP