中東かわら版

№30 イスラエル:イランが「停戦合意」に違反してミサイルを発射

 2026年6月7日、イランはイスラエルに向けて約10発のミサイルを一斉に発射した。イランによるイスラエルへの攻撃は、4月8日に停戦合意が成立してから初めてとなる。この攻撃による被害は執筆時点では報じられていないが、イスラエル当局はこの攻撃に対し強力な報復措置を取ると述べた。

 イスラエル・メディアによれば、今般の攻撃は、イスラエルが6月7日にベイルート南部のダヒーヤ地区で、イランの支援を受けるヒズブッラーを標的に空爆を実施したことへの報復であった。イラン革命防衛隊は、同攻撃について、「侵略」が繰り返されることへの「警告」であると主張している。

 イランは4月8日の停戦合意の際、合意にはレバノンへの攻撃停止を含むという認識を示した一方、イスラエルおよび米国は合意にレバノン戦線は含まれないと主張していた。この認識の下、ヒズブッラーの壊滅、あるいは武装解除を目的に、イスラエルはレバノンへの攻撃を継続し、5月29日にはイスラエル軍(IDF)がリタニ川を越えたと報じられ、5月31日には、26年ぶりにレバノン南部の戦略的要衝であるボーフォート城を制圧したとIDFは発表していた。

 こうした中、6月1日にはトランプ大統領がイスラエルとレバノンの停戦を宣言し、6月3日には米国仲介の下、イスラエルとレバノンが停戦の実施で合意した。6月3日の合意は、4月16日の10日間の停戦、4月23日の3週間延長、5月15日の45日間延長に続く、イスラエル・レバノン間の停戦枠組みであった。他方、ヒズブッラーは同合意を拒否し、イスラエルのネタニヤフ首相も、ヒズブッラーが攻撃をやめない限り、イスラエルはテロリストを標的にベイルートを攻撃すると述べており、停戦の実効性は当初より不透明であった。

評価 

 今般のイランによる攻撃は、イスラエルにとって「レバノン停戦違反への警告」ではなく、イランによる4月の停戦合意違反であり、イスラエルに対する直接攻撃と受け止められる可能性が高い。イランは、4月の停戦合意にレバノンへの攻撃停止が含まれるとの認識を示してきたのに対し、イスラエルは除外されているとの立場を崩していない。つまり、イラン戦線とレバノン戦線は別個の紛争であるとの立場である。

 この立場から見れば、イスラエルによるレバノン攻撃はイランとの停戦合意違反にはあたらない。むしろイスラエル側には、イランこそが米国との停戦合意を破り、イスラエル本土を攻撃したと映ることになる。また、イランが、当初は合意対象外とされたはずのレバノン戦線を、後から米国・イラン停戦合意に組み込もうとしているようにも見える。このことは、イスラエル側のイランに対する不信感をさらに増大させる可能性がある。

 今般の攻撃に関して、米国のトランプ大統領はネタニヤフ首相に対し、イランへの報復を控えるよう求めたと報じられている。米・イラン交渉が進展しつつある中、中間選挙を控えるトランプ政権としては、イスラエルによる大規模な対イラン報復によって交渉が決裂し、ホルムズ海峡をめぐる経済的混乱を伴った軍事衝突が再燃する事態を避けたいとみられる。

 一方、攻撃を受けたイスラエルにとって、今後の抑止維持の観点から、イランへの報復をまったく行わないことは政治的にも安全保障上も困難であると思われる。ただし、米国の意向を無視した大規模な対イラン空爆は難しいとみられ、報復を行う場合でも、米国との調整を経た限定的な攻撃にとどまる可能性がある。レバノン戦線については、イスラエル国内で北部地域がヒズブッラーの脅威に晒され続けているという意識が強い。10月に予定される国会選挙を考えても、ネタニヤフ政権はレバノン南部からの「脅威」の排除を継続せざるを得ない可能性が高い。実際、北部住民の間ではヒズブッラーへのより強硬な対応を求める声が強まっていると報じられている。イスラエルは、今後もヒズブッラーの「合意違反」を理由に攻撃を継続していくとみられる。

 こうした状況は、米国とイランの交渉を決裂させる恐れがある。イランがレバノン戦線での停戦を米国との合意の条件の一つとして位置づけているためである。イスラエル、イラン、ヒズブッラーの各当事者には、それぞれ攻撃を継続・再開する理由がある。そのため、停戦を実効性あるものにするには、単なる合意文書では不十分であり、武力を背景とした米国の仲介能力と、イスラエルおよびヒズブッラー双方への圧力行使が問われる局面となっている。

(主任研究員 平 寛多朗)

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