中東かわら版

№27 トルコ:最大野党・共和人民党への司法判断と党内対立

 2026年5月21日、アンカラ地域控訴裁判所第36民事部は、2023年11月4~5日に開催された最大野党の共和人民党(CHP)の第38回通常党大会について、瑕疵を理由に、初めから法的効力がなかったとする「絶対的無効」と判断した。これにより、同党大会は開催時点に遡って取り消されたうえ、それ以降に開かれた通常・臨時党大会、ならびにこれらの党大会で下されたすべての決定も無効とされた。

 さらに裁判所は、2023年10月8日のCHPイスタンブル県大会と同大会での決定についても、同様に無効と判断した。イスタンブル県大会は、第38回通常党大会に参加する代議員の選出に関わる手続きであったため、その無効判断は、オズギュル・オゼル氏を党首に選出した全国党大会の有効性にも及ぶこととなった。

 裁判所は、この判断に伴う暫定措置として、2023年の党大会で選出されたオゼル党首、中央執行委員会、党評議会、高等規律委員会委員らを職務から外し、前党首のケマル・クルチダルオール氏および従前の党執行部を判決確定までの間、職務に復帰させる仮処分を決定した。

 これを受け、オゼル氏はCHP本部で中央執行委員会を臨時招集し、司法判断を受け入れない姿勢を表明した。オゼル氏は、2023年党大会での自身の演説を引用しながら、政権交代に向けた闘争の継続を訴えた。一方、裁判所判断により暫定的に党首職へ復帰したクルチダルオール氏は、自身のSNSで、同判断を分裂の契機ではなく、党の団結の機会とすべきだと述べた。また、同氏の代理人弁護士は、クルチダルオール氏がオゼル氏に電話をかけ、問題解決に向けた協議を始める意向であると明らかにした。

 オゼル氏は5月23日、CHP本部で開かれた非公開の国会議員団会合で、出席議員96人中95人の支持を得て党の国会議員団長に再選された。当日欠席した議員15人も書面で支持を表明したことで、オゼル氏への支持は計110人に達した。

 翌24日には、CHP本部の明け渡しをめぐって、クルチダルオール氏側の支持者らが党本部前に集まり、建物内への立ち入りを試みたことから、本部内の党員らとの間で小競り合いが発生し、警察が出動する事態となった。アンカラ県は、クルチダルオール氏側の要請を受け、裁判所判断に基づく党本部の明け渡しに必要な措置を取るよう治安当局に指示した。また、アンカラ検察当局も、CHP本部の明け渡しに関する混乱について、無許可集会、公務執行妨害、故意傷害などの疑いで捜査を開始した。

 5月30日、オゼル国会議員団長の支持者数万人がアンカラ中心部のギュヴェン公園に集まり、アタテュルク廟へ向けて行進した。オゼル氏は演説で、今回の事態はCHP内部の争いではなく、エルドアン大統領と国民の対立であると強調し、政権の対応を批判した。 

評価 

 一つの政党の党大会の有効性や党指導部の構成に関し、司法判断によって党首および執行部が職務から外されることは、近年のトルコ政治を振り返っても異例である。裁判所は判決理由で、2023年のCHP党大会において、一部代議員に対し、金銭、地方自治体での候補者ポスト、雇用機会、買い物カードなどの提供や約束があったとし、代議員の投票意思が不正に歪められたと認定した。この点で、今回の判決は単なる党内手続き上の瑕疵にとどまらず、約2年半にわたるオゼル執行部の正統性そのものを争点とする内容であった。

 他方、今次司法判断とCHP本部への治安当局の介入については、欧米メディアも批判的に報じている。ドイツの国際放送「DW」トルコ語版(5月26日付)は、ドイツ各紙の論評を紹介した。このうち『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』(FAZ)は、CHP本部への警察の強制立ち入りを、エルドアン大統領の権威主義化を示す重い一歩と評し、同大統領が従順な裁判官の手を借りてCHPのトップに「操り人形」を据えたと論じた。『フランクフルター・ルントシャウ』は、一連の展開を受けてドイツ政府とEUは対トルコ政策を見直すべきだとし、政府がトルコのEU加盟努力を支持し続ける姿勢を疑問視した。また『ザールブリュッカー・ツァイトゥング』は、7月にアンカラで予定されるNATO首脳会議をブリュッセルに変更すべきと提案し、西側はトルコの地政学的重要性よりも民主主義と法の支配を優先すべきだと主張した。AP通信は、トルコ各地でCHP系自治体の汚職疑惑などを理由とした刑事事件が相次ぎ、数百人の選出公職者や党員が拘束されていると報じた。

 欧米メディアによるこうした批判には一定の妥当性がある。ただし、今回の問題をエルドアン政権による最大野党への司法介入として捉えるだけでは、CHP内部の支持基盤の複雑さや、同党内の路線対立を十分に説明することはできない。CHP内には、クルチダルオール氏の2023年大統領選での敗北に対する批判のみならず、オゼル氏が反政権色を強めるなかで、党の伝統的支持層や党組織内の融和を十分に図れなかったとの不満も存在する。欧米メディアは、クルチダルオール氏を「エルドアンに対抗する穏健な民主派」として好意的に描いてきた経緯もあり、今回も司法介入と権威主義化の側面を強調する一方で、CHP内部の対立、候補者選定や指導部をめぐる不満を相対的に軽く扱っている。

 また、クルチダルオール氏側の対応にも、欧米メディアは十分に踏み込んでいない。クルチダルオール氏は、2013年のゲズィ公園事件をはじめ、街頭の抗議行動に警察や治安部隊を投入したエルドアン政権を、国家権力の乱用として批判してきた。奇しくも同事件の発端から13年を迎えるなか、今回はクルチダルオール氏側が治安当局に出動を求め、オゼル氏側の党員らをCHP本部から排除する形となった。司法判断の執行という形式を取ってはいるものの、かつて街頭で国家権力に抗する側に立った人物の陣営が、党内対立の収拾にあたり、協議ではなく治安当局の力に依拠したことは、同氏が掲げる「党内融和」と矛盾しかねない。欧米メディアがこの点に踏み込んでいないことは、指摘しておく必要がある。

 国内では、犠牲祭休暇を経て、CHP内で党大会開催に向けた動きが再び活発化する見通しである。焦点となるのは、裁判所の判断により暫定的に党首職へ復帰したクルチダルオール氏が、党大会をいつ、どのような手続きで実施するのかという点である。これに対し、オゼル氏はCHP内部での早期党大会の実施を求めている。さらに、代議員の構成が争点となる事態を避けるため、全党員投票によって党首候補を決める案も提示した。

 クルチダルオール側は、現在のCHPが創設時の党の原則や道徳的価値観から乖離したと主張し、党内の「浄化」と党の再建を掲げている。しかし、その具体的な手続きや政治の方向性は明確ではない。現在の対立は、単なる個人間の主導権争いにとどまらず、CHPの今後の路線、候補者選定、党組織の掌握をめぐる権力闘争の様相を呈している。

 今回の司法判断と治安当局の介入は、エルドアン政権下での司法と政治の関係を改めて問う契機となった。CHPは2024年の地方選でAKPを上回り、イスタンブル、アンカラ、イズミルなど主要都市での市政を維持している。長期政権を敷くAKPからの政権奪取への期待が高まるなかで下された今回の司法判断によって、CHPが「二重権力」状態に陥ったことは、今後のトルコ内政に大きな影響を与える可能性がある。当面は、CHPが党大会を通じて現在の対立を収拾し、今後の路線と指導体制を定められるのかが焦点となろう。

(上席研究員 金子 真夕)

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