中東かわら版

№26 イスラエル:イランとの軍事衝突の被害と代償

 2026年5月28日、『Jerusalem Post』は、イスラエル国防軍(IDF)の国内戦線司令部の発表に基づき、2026年のイランによる攻撃でイスラエル国内に生じた被害について報じた。報道によれば4月7日時点での被害は以下である。なお括弧内の数字は、2025年7月に『Times of Israel』で報じられた、2025年6月のイランとのいわゆる「12日間戦争」の国内被害である。

 

・死者:24名(28名)

・負傷者:683名(3000名以上)

・深刻な住宅損壊:約6470戸(2305戸。ただし「深刻な損壊」であるかは不明。)

 

 負傷者に関しては、紛争中に7500人以上のイスラエル人が入院したとも報じられており、IDF国内戦線司令部の「負傷者」は、医療機関で扱われた人数全体ではなく、一定基準以上の負傷者を指すものとみられる。

 さらに5月28日付の『Jerusalem Post』では、家屋の被害数に加えて、2026年4月7日の停戦時点において、イスラエル国内で2万8000件以上の物的被害に対する補償請求が行われていると報じられている。「12日間戦争」の際には、4万5000件以上、額にして約50億シェケル(14億7000万ドル)相当の物的被害に対する補償請求が行われた。

 イスラエルでは建物、車両、屋内所有物、在庫、インフラ等が、敵対的行為あるいは戦争によって損傷を受けた場合、補償を請求することができる。イスラエル政府のウェブサイトによれば、申請の対象者は以下である。

 

 ・敵対的行為、あるいは戦争によって損傷を受けた財産を有するイスラエル市民、あるいはイスラエル居住者

 ・敵対的行為、あるいは戦争によって損傷を受けた財産を有する企業

 

 なお2025年6月の「12日間戦争」の際には、この他にも直接的な被害を受けていなくても、戦争により収入が減少した企業や一時帰休となった労働者への補助金等を含む企業向けの補償が行われた。

評価 

 2025年7月31日付の『Times of Israel』は、2023年10月以降の複数戦線において、イスラエル国内で数万棟の建物が損壊していると報じた。今般の報道でも、2026年2月末に始まったイランとの軍事衝突により、深刻な被害を受けた住宅数が6000戸を超えたとされている。これは、自宅からの避難を余儀なくされているイスラエル人が相当数に上ることを示唆している。累積する住居被害は、イスラエル人の生活基盤を損なっており、戦争による被害が死傷者数だけでは捉えきれない形でイスラエル社会に及んでいることを示している。

 実際、2026年5月18日付の『Jerusalem Post』は、イスラエル国内でメンタルヘルス治療の需要が過去2年間で約240%増加したと報じている。この増加がイランとの軍事衝突に直接起因するかは分からない。しかし、長期化する戦争状態や、イランおよび親イラン組織による攻撃がもたらす国内被害の累積と、無関係であるとも言えないだろう。

 イスラエル政府が行っている補償制度も、イスラエル社会に影響を与える可能性がある。イスラエルは戦争等による直接被害に対して一定程度の補償金を給付しているが、その補償金の申請はイスラエル国税庁のサイトを通じて行われており、補償は最終的には国家財政から支出されるとみられる。「12日間戦争」の際に行われた、間接被害による企業の損失に対する補償も、最終的には国家財政から支出されたとみられる。2025年度における、政府予算は7560億シェケル(補正予算成立後は7870億シェケル)であり、「12日間戦争」の際に直接被害の補償として申請された約50億シェケルは、予算の約0.7%に過ぎないが、一方で公的債務は2023年以降拡大している。2022年と比べると2025年の公的債務残高は名目額では約35%増加している。

 公的債務の増加は、戦争被害の補償だけでなく、防衛費の増加や経済活動の停滞など、複合的な要因によって生じているとみられる。しかし、住宅や車両などの物的被害に対する補償も、その一要因になっていると考えられる。2026年4月7日時点で、物的被害に対する補償申請は2万8000件を超えており、今後も申請数が増加する可能性がある。

 また、長期化する戦争状態は、財政面だけでなく社会面でも政府の負担を増大させ得る。今後、戦争中に高まった精神的負担やメンタルヘルス需要に、政府がより本格的に対応せざるを得ない局面に直面する可能性もある。累積する住宅被害や補償金の増加は、最終的には増税、歳出削減、あるいは公的債務のさらなる増加という形で、イスラエル市民に跳ね返る可能性がある。イランとの戦争の継続は、死傷者数だけでは捉えきれない形で、イスラエル国内に広範な影響を及ぼす可能性がある。

(主任研究員 平 寛多朗)

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