中東かわら版

№10 バハレーン・クウェイト:イラン情勢を受けた法改正の動き

 バハレーンとクウェイトで、国籍取得に関する動きが見られる。

 4月19日、バハレーン・メディアは、ハマド国王が政府高官らと会談し、国家を裏切った者達に対する法的措置の開始と、国籍取得資格に関する事案を再検討するよう指示したと報じた。

 これに先立つ4月13日、クウェイト官報は国籍法を改正する法令を掲載した。今般の改正ではいくつかの条項が改正された。その一つである第14条は以下のように改正された。第14条はクウェイト国籍のはく奪に関する条項である。 

(改正前)

1.外国の軍務に就き、クウェイト政府がその軍から離れるよう命令を出したにもかかわらず残った場合[国籍がはく奪される]。(…)

3.居住地が国外にあり、クウェイトの社会、経済システムを弱体化させることを目的とする組織に加入した場合、あるいは判決で祖国への忠誠心に抵触する有罪判決を受けた場合、当該個人のみがクウェイト国籍を失う。 

(改正後)

1.クウェイト政府の許可なく外国の軍務に就いた場合[国籍がはく奪される]。(…)

3.クウェイトの社会または経済システムを弱体化させることを目的とする組織に加入した場合、あるいは判決で祖国への忠誠心に抵触する有罪判決を受けた場合、クウェイトの社会、経済、政治システムを混乱させた場合、その子供および子孫はクウェイト国籍を失う可能性がある

4.自分の国籍の書類、あるいは他人の国籍の書類に自分の子または子孫ではない者を故意に追加した場合(…)当該本人のみ国籍がはく奪される。

評価 

 バハレーンとクウェイトは、今般のイスラエル・米国とイランの衝突で、イラクを拠点とするイラン系武装勢力による攻撃を受けた。2026年3月25日、両国はカタル、UAE、サウジアラビア、ヨルダンと共同で、イランによる直接・代理攻撃を非難する声明を発出し、とりわけイラク領内から地域諸国に向けて行われた攻撃を問題視した。バハレーンは4月13日に、イラクのカラウィー駐バハレーン代理大使を召喚し、イラク領内からの攻撃を非難した。なお、4月7日には、イラクのバスラで抗議者がクウェイト領事館に乱入する事件が発生した。

 加えて、両国では軍事衝突の最中に、ヒズブッラーと結びつく組織の摘発も発表されている。摘発されたテロリストは、国内の重要施設の位置情報や被害状況をイランに伝えていたとみられる。

 今般の、国籍法改正の動きは以上のような状況な中で行われている。既に国籍法改正が公布されたクウェイトを見ると、その狙いの一つが、外国勢力と結びつくとみなされたクウェイト人に対する排除の法的基盤を強化することにあるとうかがえる。改正第14条1項では「クウェイト政府がその軍から離れるよう命令を出したにもかかわらず」との文言が削除され、「外国の軍務に就いた場合」に国籍をはく奪できるようになった。また3項では、「居住地が国外」という文言が削除されると共に、クウェイトを混乱させた場合には、「その子供および子孫」の国籍をはく奪することができる文言が追加されている。これにより、クウェイトは国内外を問わず、クウェイトに悪影響を及ぼし得る家族に対して、国籍剥奪をより広く適用し得るようになった。

 バハレーンに関しては、国籍法の改正の方向性が指示された段階である。そのため、クウェイトと同じように、政治的・安全保障的判断に基づく国籍はく奪の余地を大きく拡大させるかは不透明である。しかし「国家を裏切った者達」に対する処罰を国王が求めており、その中で国籍法改正の指示が出ていることから、国籍を安全保障・忠誠の問題として扱う方向であるとは言える。

 また、このような剥奪余地の拡大は、どのような行為が剥奪事由に該当するのかを曖昧にする可能性もある。実際、クウェイトの改正第14条3項には「クウェイトの社会、経済、政治システムを害する」との文言が加えられているが、その要件は具体化されていない。今般の改正では、「国籍に関するすべての決定は司法審査の対象とならない」という文言も明記されており、国家が恣意的に国籍をはく奪できる余地を拡大させたとも言える。

 今般の国籍法改正は外国勢力と結びつくとみなされた者を排除するだけでなく、国家への忠誠をめぐる監視や威圧を強める制度的基盤にもなり得るものであると言えるだろう。

(主任研究員 平 寛多朗)

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