№9 トルコ・イスラエル:「ネタニヤフはヒトラー」、「エルドアン、くたばれ」と両国が罵り合い
イラン・米国/イスラエルによる戦争の出口が見えない中、トルコとイスラエルの間では、首脳・閣僚レベルで激しい非難の応酬が続いている。
2026年4月10日、エルドアン大統領はイスタンブルでの会合で、現在の戦争や武力衝突の重荷を背負わされているのは女性と罪のない子どもたちであると述べ、ガザ、レバノン、イランをめぐる情勢に言及した。そのうえで、パレスチナ人囚人のみを対象とする死刑導入はアパルトヘイトにほかならず、法を人種差別的ファシズムの道具とするものだと批判し、「ヒトラーによるユダヤ人への怪物的な政策と、イスラエル議会の決定との間に、本質的な違いがあるのか」と主張した。
同日には、イスタンブル首席検察庁が2025年10月のガザ支援船団「スムード船団」に対する拿捕をめぐり、ネタニヤフ首相、カッツ国防相、ベン・グヴィル国家安全保障相、ザミール参謀総長ら35人について起訴状を作成し、各被告に対する加重終身刑及び、別件の罪状について1102年9カ月から4596年の懲役刑を求めた。
この起訴を受け、翌11日にネタニヤフ首相が反応した。同首相はXへの投稿で、「イスラエルは私の指導下でイランのテロ政権とその代理勢力との闘いを続ける。それらを容認し、自国のクルド市民を虐殺したエルドアンとは違う」と述べた。カッツ国防相もまた、イランのミサイルがトルコ領空に侵入したにもかかわらず強い対応を取らなかったとして、エルドアン大統領を「張子の虎」と非難した。さらにベン・グヴィル国家安全保障相は、エルドアンに対して「エルドアン、くたばれ」と露骨な罵倒表現を英語で投稿した。
これに対し、トルコ外務省は同11日、「現代のヒトラーと形容されてきたネタニヤフがいかなる人物であり、いかなる経歴の持ち主であるかは明白である」とする声明を発表し、イスラエル側の非難は、トルコがあらゆる場で繰り返し指摘してきた「真実」に対する反発でしかないと反論した。
その後も両国間の応酬は続いたが、12日付の『The Jerusalem Post』紙が、エルドアン大統領がイスラエルに対する軍事関与の可能性を示唆した、と報じたことで、二国間関係の緊張は一段と強く印象づけられた。さらに13日付の同紙は、フィダン外相が「イスラエルは敵意なしには生きられず、次にトルコを標的にする可能性がある」と述べたとも伝えている。
評価
今般のエルドアン大統領による対イスラエル強硬発言は、レバノンへの攻撃継続と対イラン戦争の長期化を背景に出されたものである。とはいっても、イスラエルやネタニヤフ首相を「ジェノサイド」や「ヒトラー」といった強い表現で非難すること自体は従来からみられるものであり、今回の発言もガザ戦争以降の対イスラエル強硬路線の延長上にあるとみるべきである。
他方、イスラエル側が報じているような、イスラエルへの軍事介入に直接言及するようなエルドアン大統領の発言は現時点で見受けられない。4月15日に、エルドアン大統領は、与党公正発展党(AKP)の院内会合で、「暴君には『暴君』、無法者には『無法者』、殺人者には『殺人者』と言い続ける。トルコは、ありふれた国家ではない。また、我々が温和で良識を持っているからといって、誰もそれを「従順な羊である」と解釈してはならない。地上で不名誉に生きるよりも、必要とあれば地下で名誉をもって眠ることを最大の誉れと見なしている」と発言しているが、これが直接、イスラエルへの武力行使を示唆しているというのは、拡大解釈であろう。
4月14日付の『The Jerusalem Post』も、英国の『Telegraph』が報じた「イスラエル侵攻」示唆は、2024年の古い発言に依拠していた可能性があるとして、トルコ大統領府の偽情報対策機関がこれを否定したことも報じている(※なお『Telegraph』は、当該記事を13日に削除)。エルドアン大統領が軍事行動の可能性を示唆するような、強い表現を用いたことは確かだが、直ちに具体的な軍事行動方針を表明したと断定するのは慎重であるべきだろう。
むしろ注目すべきは、トルコが強硬なレトリックを維持しつつも、現実の対応としては抑制を保っている点である。トルコは、イランのミサイルが自国領空に侵入した際にも、抗議こそ行ったが軍事報復には踏み切らず、NATO第4条や第5条の発動も求めなかった。こうした対応を見る限り、トルコは戦争の当事者となることを回避しながら、地域の仲介役・調停役としての立場を保とうとしていると考えられる。したがって、現時点でトルコがイスラエルに対して武力介入に踏み切る可能性は低いと言えよう。
他方、イスラエル側では、こうした発言を梃子に、トルコを「次の脅威」と見なす論調が相次いでいる。『The Jerusalem Post』は4月13日と15日に、トルコをイスラエルが次に警戒すべき相手として描く論考や分析を相次いで掲載し、14日付の『Israel Hayom』も「トルコは本当にイスラエルを侵略することができるのか?」、「イランは予行演習だった。トルコ問題はすでに始まっている。」との論考で、現在と将来におけるトルコの軍事的脅威を検証している。これらの記事ではシーア派の大国、イランに代わるスンナ派勢力圏としてトルコを捉える見方が示されるなど、荒唐無稽とさえ言いうる議論もみられるが、そうした議論の現れ方自体に、トルコに対するイスラエルの警戒心が表れている。
その一方で、首相を含むイスラエル高官がトルコでの起訴に対して即座に反応したのに対し、トルコによる軍事関与の可能性については、目立った反応が報じられていない点は注目に値する。「軍事関与」に類する発言は、危険な一線を明確に越えかねず、そのためイスラエル側もこれに対しては慎重に反応せざるを得なかったとみられる。トルコ側もまた、軍事行動を示唆する報道を即座に否定しており、結局のところ、両国は実際の軍事衝突が生じない距離を保ちつつ、相互に威嚇と非難を応酬しているのである。
しかし、政府高官がトルコに強硬な立場を取っていることは報じられており、それがイスラエル国内における「トルコ脅威論」やトルコへの嫌悪感情を強めている可能性はある。トルコは米国のトランプ大統領が主導したイスラエル・ハマース間の停戦において仲介国に加わるなど、米国との関係を維持している。今後もイスラエルをめぐる地域情勢の仲介にトルコが関わる可能性があり、その際には、イスラエル国内で強まった対トルコ感情が問題となることも否定できない。
またトルコにとって利益があるのは、あくまで対外的な強硬姿勢の表明であって、実際のエスカレーションではない。こうした強い発信は国内外で一定の政治的効果を持つ一方、直接的な軍事介入に踏み込めば、トルコが維持してきた抑制的立場や仲介者としての役割を損なう。結果としてトルコが得るものよりも失うものの方が大きくなる可能性がある。今般の応酬は、両国間の直接衝突を意味するものではないが、相互不信と脅威認識を強める点で、両国にとって有益なものとはならないであろう。
(上席研究員 金子 真夕)
(主任研究員 平 寛多朗)
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