中東かわら版

№87 エジプト:独立系ニュースサイトに閉鎖命令

 2026年10月27日、エジプトの軽犯罪裁判所は、独立系ニュースサイト「マダー・マスル」に対し、閉鎖を命じる判決を下した。また同時に、同サイトの創設者であり編集長でもあるリナ・アターアッラー氏に対し、無許可でウェブサイトを運営した罪で、300万エジプトポンド(約845万円)の罰金を科した。

 これに先立つ10月1日、内務省はファクトチェックを行うオンライン・プラットフォーム「Matsada2sh」のスタッフ6名を逮捕したと発表した。同省によれば、同プラットフォームは、海外に逃亡中であるムスリム同胞団メンバー、アブドッラフマーン・マンスール氏によって運営されており、エジプトの安定を揺るがすため、虚偽のニュースを拡散させていたという。10月7日には、海外に逃亡中のムスリム同胞団の指導者らは、メンバーに対しソーシャルメディアのページやオンライン・プラットフォームを立ち上げるよう指示しており、「Matsada2sh」はその一つであったことが判明したと検察が発表した。

 今般閉鎖が命じられた「マダー・マスル」は、「Matsada2sh」のメンバーが逮捕されて以降、自身のサイトで、当局による言論弾圧、容疑の捏造、手続上の人権侵害を批判する報道を続けていた。

評価

 今般の「マダー・マスル」の閉鎖をめぐる一連の出来事は、エジプトにおけるメディア規制の恣意的な運用を窺わせるものである。同サイトは、無許可でウェブサイトを運営していたことを理由に、裁判所から閉鎖を命じられた。しかし、同サイト側の主張によれば、メディア・報道を規制する新法が可決された2018年以降、メディア規制最高評議会(SMRC)に複数回にわたり運営許可を申請してきた。アターアッラー氏が申請の不許可を告げられたのは、2022年に別件で当局の尋問を受けた際であり、許可拒否を争う訴えは2023年に退けられたがその後の申請にも回答がなかったという。同サイト側の説明に従えば、許可取得に向けて申請を重ねても明確な回答が得られない状況が続く一方、その状況は当局が無許可での運営を事実上「黙認」してきたとも捉えられる。

 そのような法の運用は、ニュースサイトに報道活動を一定程度許容する一方で、当局による摘発・閉鎖を容易にするものである。「マダー・マスル」は、エジプトの現在の政治・社会体制の問題を追及する姿勢を示すメディアとして知られており、政府を批判する報道も行ってきた。他方で「マダー・マスル」側の主張によれば、同サイトや所属する記者・編集者に対する訴追は、今回を含め過去6年間で6件に上っている。2025年にも、アターアッラー氏が「虚偽のニュースの流布」と「無許可でのウェブサイトの使用」の容疑で訴追されている。エジプトにおいて政府に批判的な報道をすることは可能であるが、「マダー・マスル」のようなメディアは、運営許可をめぐる不安定な法的地位に置かれ、無許可運営を理由とする訴追のリスクにさらされている。

 エジプト内閣は、10月28日にデマや虚偽ニュースに関する罰金を引き上げるため、刑法改正案の準備を進めていると発表した。政府は以前から、意図的に捏造されたニュースに対してより厳しい罰則を科す方針を示しており、罰金の引き上げもその流れの中で検討されてきたとみられる。

 今般、「マダー・マスル」が、ムスリム同胞団との関係を理由とした「Matsada2sh」の摘発について、当局の説明を批判する報道を行っていたことが、同サイトに対する強硬な対応の背景にあった可能性がある。現在の政府は、ムスリム同胞団をテロ組織に指定し、同組織に対して断固とした姿勢を示している。エジプトでは、過激思想に基づいて国内でテロ活動を行ってきたイスラーム主義組織も存在しており、暴力の扇動や組織への勧誘を防ぐために一定のメディア規制を設けることには、治安維持上の合理性がある。他方、当局の説明に異議を唱える報道が、そうした扇動や勧誘に当たるとは限らない。今般の事案が示すように、何を「虚偽のニュース」とみなすかについて、当局とメディアの判断は一致していない。「虚偽のニュース」の認定や規制の運用への不透明感が強まれば、メディアが摘発を恐れて批判的な報道を控えるなど、自己検閲がより広がる可能性がある。

(主任研究員 平 寛多朗)

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