中東かわら版

№86 イスラエル:選挙の暫定結果とネタニヤフ首相の「勝利」

2026年10月27日、イスラエルでクネセト(国会)選挙が行われた。10月29日、イスラエル各種メディアは選挙の暫定結果を報じた。以下は、その暫定結果である。

政党・連合

党首

党の特徴

獲得議席数(得票率)

リクード

ネタニヤフ

現連立政権
右派

27(20.52%)

シャス

アリエ・デリ

現連立政権系
ユダヤ教超正統派

6(5.26%)

ユダヤ・トーラー連合

アッシャー/
ゴールドクノップ

現連立政権系
ユダヤ教超正統派

7(5.49%)

ユダヤの力

ベン・グヴィル

現連立政権
極右

7(5.74%)

宗教シオニズム・ゼフート

スモトリッチ

現連立政権
極右

6(5.10%)

イスラエルの人々

ウィンター

右派
親ネタニヤフ

0(1.68%)

ヤシャル

アイゼンコット

中道右派寄り
反ネタニヤフ

21(16.05%)

ベ・ヤハド

ベネット

中道右派
反ネタニヤフ

12(9.34%)

イスラエル我が家

リーベルマン

右派
反ネタニヤフ

7(5.93%)

民主

ゴラン

左派
反ネタニヤフ

8(6.44%)

予備役・経済

ヘンデル

中道右派
非同盟

0(2.72%)

ラアム

アッバース

イスラーム主義
アラブ系

8(5.93%)

共同リスト

ジャバリーン

アラブ系
左派および民族主義

11(8.79%)

※中央選挙委員会のデータや『タイムズ・オブ・イスラエル』の報道等を基に筆者作成。

 報じられた暫定結果によれば、親ネタニヤフ陣営が53議席、反ネタニヤフ陣営が48議席となり、どちらの陣営も過半数の61議席を獲得することができなかった。アラブ系の政党は合計で19議席を獲得し、選挙前の10議席から大幅に議席を増やした。なお、暫定結果であるため獲得議席数は変化する可能性もある。

 今般の選挙における有権者の総数は733万1981人であり、投票率は77.9%であった。この投票率は、1999年以来の高さとなった。選挙の阻止条項は3.25%であり、得票率がそれ未満の政党・連合は、議席を獲得できない。

 選挙結果は11月4日に官報に掲載され、正式に公表される予定である。公表後7日以内に、大統領が各会派との協議を経て組閣を担当する議員を指名する。組閣手続きは、選挙結果の正式公表後、最大約4カ月に及ぶ可能性があり、新政権が発足するまでは、現在の政権が暫定政権として行政を担う。なお、決められた期間内に組閣できなければ、再選挙となる。

評価

 今般の選挙は、親ネタニヤフ陣営が過半数を獲得できなかったものの、ネタニヤフ首相にとって実質的な「勝利」となる可能性がある。選挙前の報道によれば、リクード党内では、親ネタニヤフ陣営が55~56議席を獲得すれば、反対陣営の組閣を阻止できるとの見方が示されていた。反ネタニヤフ陣営の主要政党がアラブ系政党との協力を拒否する中、同陣営が組閣できなければ、ネタニヤフ首相は暫定政権の首相として続投できる。

 ネタニヤフ陣営の実際の獲得議席は53議席と目標には届かなかったが、反ネタニヤフ陣営も48議席にとどまったため、両陣営とも、それぞれの構成政党だけでは過半数を確保できない。反ネタニヤフ陣営が現在の枠組みを維持して政権を樹立するには、同陣営を構成する主要政党が、選挙前に示したアラブ系政党との協力拒否の姿勢や政策を転換する必要がある。アラブ系政党の躍進の背景には、イスラエル国内のアラブ系市民に対する犯罪・暴力の増加や、極右閣僚の言動に対する反発があるとみられる。また、アラブ系政党は、ガザ地区・ヨルダン川西岸地区におけるパレスチナ人の状況にも強い懸念を示している。このため、反ネタニヤフ陣営がアラブ系政党との協力によって政権を樹立する場合には、国内の治安対策やパレスチナ政策をめぐり、アラブ系政党の要求への対応を迫られるだろう。

 『エルサレムポスト』紙が報じたところによれば、選挙当日の27日に行われた世論調査では、反ネタニヤフ陣営の支持者の過半数が、同陣営とアラブ系のラアム党との連立政権を支持した。しかし、同陣営の議席数が予測に反して伸びなかったため、ラアム党の8議席を加えても56議席にとどまり、過半数には届かない。現在の陣営の枠組みを前提とすれば、同じくアラブ系である共同リストの協力も必要となる。共同リストを含め、アラブ系政党にどの程度依存する政権を同陣営の支持者が許容するかは不透明である。

 他方、親ネタニヤフ陣営には、議席を上積みする余地がある。同陣営に属するユダヤ教超正統派政党および極右政党にとっては、政治的主張の実現という点で、ネタニヤフ首相が率いるリクード党との連立を維持する利点がある。一方、反ネタニヤフ陣営は、ネタニヤフ首相の退陣を共通目標として結束しているものの、各党の政治的主張にはばらつきがある。そのため、組閣交渉の過程で陣営が分裂し、親ネタニヤフ陣営との連立を選択する政党が出てくる可能性も否定できない。また、再選挙になった場合、今般議席を獲得できなかったイスラエルの人々党が撤退、あるいは極右政党などと統一名簿を形成すれば、今回同党に投じられた票の一部が、親ネタニヤフ陣営の議席増につながる可能性がある。さらに、アラブ系の躍進に危機感を覚える支持者の票が、再選挙の際に、反ネタニヤフ陣営から親ネタニヤフ陣営に流れる可能性もある。

 反ネタニヤフ陣営がアラブ系政党との協力拒否を維持した場合、ネタニヤフ首相の続投が長期化する可能性がある。また、再選挙となった場合にも、ネタニヤフ首相側には、小党との候補者調整や反ネタニヤフ陣営からの支持取り込みを通じて、議席の上積みを図る余地があると言える。

 【参考】

「イスラエル各政党の主張と再選挙の可能性――徴兵法とアラブ政党をめぐる問題」『中東分析レポート』R26-08。※会員限定。

(主任研究員 平 寛多朗)

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