中東かわら版

№85 シリア: 教科書の改訂が論争を呼ぶ

 教育省は、シリアの義務教育(日本の小中学校に相当)で使用される教科書のうち、第1学年から第7学年で使用される教科書を改変した。改変は歴史、宗教教育、各種社会学習に及んでおり、前体制に関連する部分が削除されているだけでなく、地方自治や政治生活、報道、民主的(社会)参加についての項目が削除された。また、挿絵や画像も改変され、女性や子供の挿絵・画像の削除、ヒジャーブを着用したものへの差し替え、考古遺物や美術作品についても差し替えや衣服・ヒジャーブで覆うなどの改変があった。

 2026年10月25日付『クドゥス・アラビー』紙(在外のパレスチナ資本の汎アラブ紙)は教科書改変への評価について、シリア社会をさらなる過激化へ押しやるとの批判と大半が保守的なシリア社会の性質を具現化したものだと評価する意見があると報じた。

評価

 シリアでは、2024年末の体制転換以来、様々な局面で「イスラーム化」が進められている。それらは、海水浴場・プールなどでの服装規制の強化、地方自治体窓口業務勤務者への服装・化粧の規制、アルコール飲料の販売・提供規制、結婚式場や特定の商品の販売や公共交通機関での男女の分離などに及んでいる。今般の教科書改変より前の2025年度用第9学年(日本の中学校3年に相当)の歴史の教科書では、下図の通りセーヴル条約(注:第一次世界大戦の戦後処理のための条約の一つで、1920年に締結。1923年のローザンヌ条約で、セーヴル条約の合意事項の一部は無効となった)での決定事項を図示した地図で、イスケンデルーン地域(赤円内)が本来の条約の決定事項と異なりトルコ領として記載されるなど歴史的事実を顧みない叙述も見られる。

図:2025年度第9学年歴史の教科書19頁より。地図のタイトルは「1920年のサンレモ会議での分割図」。イスケンデルーン地方を囲む赤枠は筆者が加筆。

 

 現在のシリアで進んでいる様々な変化、特に公権力の行使を通じたイスラームの実践にまつわる変化の特徴は、本来、憲法制定やそれに基づく議会の選出とそこでの議論などを通じて国民的な議論や合意を経て方向づけられるべきシリアの国家や社会の性質に関わる重要な事項が、大統領令や法令に拠ることなく地方自治体や個別の省庁の部局内での決定によって導入されていることである。上に挙げた各種の決定の中には批判を受けて撤回・緩和されたものもあるが、国家や社会を方向付け、シリアの人民の少なくとも一部の思想・信条、文化に著しい制限を加える諸決定が、議論を経ず人民の審判や問責を受けることなく次々と導入されているのが現状であり、危惧すべき状況にある。

(特任研究員 髙岡 豊)

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