№84 ヨルダン:テロの報復としてヨルダン軍がシリア南部を空爆
2026年10月26日、ヨルダン軍はシリア南部にあるテロリストの拠点を空爆したと発表した。
これに先立つ10月23日、ヨルダン中西部のカラク県フムード村の教会で、葬儀に参列していた人々に武装したグループが発砲するというテロ事件が起きていた。26日時点で、このテロにより9名が死亡、30~40名が負傷した。
この事件を受け、23日、アブドッラー2世国王およびヨルダン政府は、テロに対する断固とした措置を取ると宣言していた。また、ムーマーニー政府報道官は、このテロの背後には過激思想と他者を背教者と断じる「タクフィール」思想があったと指摘し、事件とイスラーム過激主義との関連を示唆していた。
26日、ヨルダン公安局はテロ事件の容疑者を逮捕したと発表した。当局の発表によれば、テロは計画的なものでなく、葬儀の場に居合わせその場で決行が決められた。容疑者は、兄弟2名とその親族1名の3名であり、テロの現場となった教会の隣に住んでいたという。
公安局は3名による独自の犯行と説明した一方、軍はシリアのテロ組織との関連があるとみて、26日に「テロに対する報復」として空爆を行った。

評価
現在、ヨルダン政府は、キリスト教ゆかりの地を活用した観光振興に力を入れている。10月21日付の国営通信『ペトラ』は、政府が「イエスの洗礼地」を自然保護区に指定したと報じた。これは、2030年にイエスの洗礼から2000年を迎えるにあたり、キリスト教徒の巡礼先としてヨルダンの地位を高めようとする動きの一環である。こうした取り組みを進めるヨルダン政府に対し、教会を標的とした今般のテロ事件は、巡礼観光の前提となる治安の安定と宗教的共存の確保という課題を突き付けている。
ヨルダンでは、これまでにも「イスラーム国」の影響を受けたテロが発生している。今般テロが起きたカラクでは、2016年12月にも襲撃事件が起き、外国人を含め10名が死亡した。このテロ攻撃に関しては、「イスラーム国」が声明を出している。また、2019年11月にはジェラシュで外国人を標的としたテロ事件が起き、8名が負傷した。裁判資料によれば、主犯は「イスラーム国」を支持し、同組織の指導者バグダーディーの死亡への報復として事件を起こした。ヨルダンはシリアと隣接していることもあり、「イスラーム国」の影響は大きく、2015年の時点では2000人以上が同国から「イスラーム国」に合流したと推定されている。
こうした過激派の脅威への対処は、ヨルダンにとって継続的な課題となってきた。実際、ヨルダンは2025年12月にはシリア南部で、2026年1月にはシリア領内の複数地点で、「イスラーム国」を標的とする空爆を行っている。報復としての今般の空爆が、同組織を標的としていたかは報じられていないが、10月24日には、「イスラーム国」とカラクでのテロを関連付けるような音声がネット上で出回っていた。その音声の信ぴょう性や特定組織の関与は明らかになっていないものの、今般の事件は、過激なタクフィール思想がヨルダン国内で暴力を引き起こし得るという課題を改めて浮き彫りにしている。
ヨルダンがキリスト教ゆかりの地への巡礼者を呼び込むには、国内の治安を安定させるとともに、他宗教への敵意や過激なタクフィール思想が暴力につながることを防ぎ、安心して訪問できる環境を確保する必要がある。そのため、政府には、テロの未然防止に加え、教育などを通じて宗教的寛容を育み、過激思想の浸透を防ぐ取り組みが求められる。また、社会に不満を持つ者が過激思想に引き寄せられることを防ぐには、その不満を平和的に表明できる経路を確保する必要もあるだろう。その観点から、穏健なイスラーム主義団体との関係を再検討することも、政策上の選択肢となる可能性もある。
【参考】
「ヨルダン:カラク襲撃事件で「イスラーム国」が犯行声明を発表」『中東かわら版』2016年度No.144。
(主任研究員 平 寛多朗)
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