№80 エジプト:エチオピアの外交官をペルソナ・ノン・グラータに指定
2026年10月2日、エジプトは、在カイロ・エチオピア大使館の参事官をペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)に指定し、48時間以内の退去を命じた。これは10月1日に、エチオピア政府が同国駐在のエジプト外交官をペルソナ・ノン・グラータに指定したことを受けたものである。なお、この際、エリトリア外交官10名もペルソナ・ノン・グラータに指定され、エリトリアはエチオピアとの外交関係を断絶すると宣言した。
10月4日、エジプトは、ニュー・アラメインでエリトリア、ソマリア、スーダンの各国首脳らと4カ国首脳会談を開催し、アラメイン共同宣言を発表した。同宣言では、エチオピア大ルネサンス・ダム(GERD)を念頭に、ナイル川下流2カ国の既存の水利用を損なう一方的措置を拒否し、紅海の管理は紅海沿岸国の専管事項であるとの立場が示された。また、ソマリアの主権と領土的一体性を支持し、ソマリランドの承認や同地域への支援を拒否した。
これに対し、エチオピア国営通信は10月6日付で、このアラメイン共同宣言を非難する論説を掲載した。同論説は、エリトリアをエジプトの対エチオピア代理勢力と位置付けるとともに、共同宣言がエチオピアを紅海の管理から排除しようとしていると主張した。
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(グーグルマップを使用し筆者作成。)
評価
今般のエジプトとエチオピアの対立は、ソマリランドの国家承認問題を通じ、イスラエルとの利害対立も絡む形で複雑化する可能性がある。
エチオピアがエジプトの外交官をペルソナ・ノン・グラータに指定した理由は公式には発表されていないが、複数の報道からその背景をうかがい知ることができる。エジプトの『アフラーム』紙は9月29日付で、エチオピア軍の参謀総長が、エジプト、スーダン、およびエリトリアがエチオピア北部で連邦政府と戦う勢力を支援しているという趣旨の発言を行ったと報じている。また、エチオピアの『FANA』は10月2日付で、エジプトはナイル川流域での自国の支配的地位を維持しようとし、他方で強力なエチオピアが海洋アクセスを持つことに懸念を抱いているとの記事を掲載した。
ナイル川下流に位置するエジプトは、ナイル川の上流に位置するエチオピアによるGERDの建設に反発してきた過去がある。GERDが竣工して以降も、エジプトはナイル川の水量の減少は国家存亡にかかわる問題であると強調し、エチオピアに対し国際法を遵守すること、GERDの運用に関する合意の締結を求めてきた。さらに、エジプトはエチオピア政府が、国際法を遵守しない場合には、あらゆる外交手段で対抗すると述べていた。
そうした流れの中で、エジプトは今年に入りエリトリアとの関係をさらに強化していた。5月には、アブドゥルアーティー外相らがエリトリアを訪問し、両国は海上輸送協力協定を締結している。さらに6月には、アフウェルキ大統領がエジプトを訪問し、シーシー大統領と会談している。その際、シーシー大統領は、エリトリアの主権に対するエジプトの支持、紅海沿岸諸国間の連携強化の重要性を強調した。
こうしたことが、エチオピアの反発を招いたとみられる。独立戦争の結果、エリトリアが1993年に独立して以降、エチオピアは紅海に面する海岸線を失い、内陸国となった。海への接続を求めるエチオピアは、「正当な海へのアクセス権」を主張し、エリトリアに対して同国のアッサブ港の使用を求めてきた。2026年2月には、エチオピアが海洋アクセスを確保する方策として「土地交換」にも言及している。エリトリア側はこうしたエチオピアの動きを、地域を不安定化させるものとして強く非難していた。そうした中、GERDをめぐり対立するエジプトがエリトリアとの関係を強化することは、エチオピア側には、GERD建設への「報復」として自国の紅海へのアクセス確保を妨げる動きと映った可能性がある。
また2024年には、エチオピアはソマリランドとの合意を通じて海へのアクセスを確保しようとし、ソマリアとの関係を悪化させた。ソマリランドはソマリアからの独立を主張しているが、ソマリア政府はこれを認めていない。エチオピアはソマリランドの沿岸部について長期的な利用権を得る見返りにソマリランドを国家として承認する意向を示したと報じられた。
今般、エジプトがエリトリア、ソマリア、スーダンと共に発表したアラメイン共同宣言は、紅海の管理を沿岸国の専管事項とするとともに、ソマリアの領土的一体性を支持し、ソマリランドの承認を拒否した。これは、エリトリア方面に加え、ソマリランドを通じた海洋アクセスの確保を目指すエチオピアを牽制するものといえる。エチオピア側から見れば、エジプトによる外交的包囲が着実に進んでいるように映る。
こうした包囲に対し、仮にエチオピアが「ソマリランドの国家承認」というカードを切れば、エジプト・エチオピアの問題にイスラエルが絡んでくることになる。イスラエルは、2025年12月に世界で初めてソマリランドを正式に国家として承認した。エチオピアが承認すれば2国目となる。エチオピアはイスラエルと良好な関係にあり、2026年9月には駐エチオピア・イスラエル大使がエチオピアの海洋アクセス確保に向けた取り組みを支持すると述べている。エチオピアがソマリランドを承認すれば、同地域の国家承認をめぐってイスラエルと足並みをそろえることになり、ソマリアの領土的一体性を支持するエジプトとの対立はさらに複雑化する可能性がある。エジプトによる外交的圧力の強化は、エチオピアに譲歩を促す一方で、ソマリランド承認という対抗措置を選ばせるリスクも伴うものとなっている。
(主任研究員 平 寛多朗)
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