№77 イスラエル:各党が提出した候補者名簿とその特徴
2026年9月8日夜、10月27日に行われる総選挙に向けた候補者名簿の提出が締め切られ、38の候補者名簿が提出された。イスラエルの総選挙は全国を1つの選挙区とする比例代表制で行われるため、立候補するには、政党・政治勢力が提出する候補者名簿に名前が記載される必要がある。選挙では、各候補者名簿の得票に応じて議席が配分され、名簿の上位に記載された候補者から順に当選する。なお、阻止条項は有効投票の3.25%であり、これを下回った候補者名簿記載の候補者は議席を獲得することができない。
候補者名簿を提出し、議席を獲得する可能性の高い政党は以下である。
|
政党・連合 |
党首 |
党の特徴 |
候補者名簿の特徴 |
|
リクード |
ネタニヤフ |
現連立政権 |
名簿記載者35名のうち女性4名と女性比率が低い。さらに上位15名で見ると女性は2名(5位と9位)。 |
|
シャス |
アリエ・デリ |
現連立政権支持 |
女性候補なし。イスラエル国防軍(IDF)の予備役少佐のアモスが6位に入る。 |
|
ユダヤ・トーラー連合 |
アッシャー/ |
現連立政権支持 |
女性候補なし。連合を構成するデゲル・ハトーラーの候補者が上位10名のうち6名。デゲル・ハトーラーは党首を含め大規模な人の入れ替えを行った。超正統派の兵役を免除する法案の成立に失敗したためだとみられる。 |
|
ユダヤの力 |
ベン・グヴィル |
現連立政権 |
元リクードのゴトリヴを2位に配置。ゴトリヴを含め、女性候補は3名(うち2名が当選の可能性)。 |
|
宗教シオニズム・ゼフート |
スモトリッチ |
現連立政権 |
上位15名のうち女性候補は4名(うち1名が当選の可能性)。スコット現議員を実質的な当選圏外である7位に配置。一方、人質家族で構成される右派団体の元代表を、当選圏の5位に配置。 |
|
イスラエルの人々 |
ウィンター |
右派 |
上位5名の候補者のうち3名が女性。 |
|
ヤシャル |
アイゼンコット |
中道右派寄り |
上位10名のうち5名が女性。2位にイスラエル保安庁(シン・ベト)のコーエン元長官を配置。 |
|
ベ・ヤハド |
ベネット |
中道右派 |
上位10名のうち5名が女性。元政府高官が多数。元リクード党の党員も含まれる。 |
|
イスラエル我が家 |
リーベルマン |
右派 |
上位10名のうち3名が女性。ハマースによる攻撃で息子を失ったシトリトを2位に、国家安全保障会議の元副議長を3位に配置。 |
|
民主 |
ゴラン |
左派 |
上位10名のうち5名が女性。2023年10月7日にハマースによって拉致された生存者を象徴的に名簿に入れる(99位)。 |
|
予備役・経済 |
ヘンデル |
中道右派 |
労働党等に所属したウィルフ元国会議員を3位に配置。 |
|
ラアム |
アッバース |
イスラーム主義 |
ラピード元首相が率いたイェシュ・アティッド党の元議員であるセガロヴィッツを名簿2位に配置。同氏は、ユダヤ人。女性候補は当選圏に1名。 |
|
共同リスト |
ジャバリーン |
アラブ系 |
2名のユダヤ人候補を配置(6位と15位)。女性候補は当選圏に1名。 |
※イスラエル・メディア『タイムズ・オブ・イスラエル』等を基に筆者作成。
評価
今般提出された候補者名簿で目立つ特徴の一つは、ネタニヤフ首相を支持する主要政党と、主要な反ネタニヤフ政党との間にみられる女性候補の比率の違いである。反ネタニヤフの立場を取る主要政党が名簿の上位10名のうち5名を女性とするなど、ジェンダーバランスに配慮する一方、現政権にはそのよう配慮はみられない。現在の連立政権を支える超正統派系の政党に至っては、女性候補者はゼロである。こうした違いには、それぞれの政党の支持基盤に加え、とりわけ超正統派政党における宗教的・社会的規範や候補者選定のあり方が反映されているとみられる。
一方、ネタニヤフ首相の続投を支持する右派政党「イスラエルの人々」は、女性候補を名簿上位に配置するなど、ネタニヤフ陣営の主要政党とは異なる特徴を示している。また同党は、超正統派を含めて兵役への参加を求める法律が成立しない限り、次期政権には参加しないとの立場を示している。ネタニヤフ首相を支持しながらも超正統派に対する一律の兵役免除には反対することで、従来の連立与党とは異なる右派の選択肢を提示しようとしているとみられる。
超正統派のシャス党の候補者名簿に関しては、IDFの予備役少佐を6位という当選可能性の高い位置に配置したことが注目される。超正統派の政党に関しては、兵役拒否をめぐり国内で批判が強まっており、軍務経験者を名簿上位に置くことで、徴兵拒否のイメージを和らげることを狙っている。
またスモトリッチ財務相が率いる宗教シオニズム党は、スコット議員を当選が容易ではない順位に配置した。スコット議員は、8月後半に、ヨルダン川西岸地区を訪問した際、パレスチナ人の殉教者を顕彰する記念碑を破壊し、イスラエル国内で強い批判を受けた。今般の候補者名簿は、西岸地区における入植拡大を強く支持する宗教シオニズム党であっても、国家や軍の権限を無視した独自行動とは一定の距離を置こうとする姿勢を示したといえる。
他方、主要な反ネタニヤフ政党の候補者名簿には、2023年10月7日のハマースによる攻撃やその後の戦争に関係する軍・治安機関経験者、犠牲者・人質の家族などが目立っており、国家安全保障や10月7日を重要な選挙争点として位置づける姿勢がうかがえる。
野党勢力の中で特に目を引くのが、アラブ系でイスラーム主義に分類されるラアム党が、ユダヤ人候補者を当選可能な2位に配置したことである。ユダヤ人候補がラアムの候補者名簿に加わるのは初めてである。この人選は、ラアムがアラブ系有権者のみを代表する政党ではなく、ユダヤ人を含むより広範な政治的協力に参加し得る勢力として位置づける狙いがある。また、将来的にアラブ系政党以外との協力も視野に入っているとみられる。
イスラエル各紙が公表している世論調査では、多くの調査でアイゼンコット率いるヤシャルがリクードを上回っているものの、両党の獲得予想議席数には調査ごとにばらつきがある。また、ネタニヤフ首相を支持する陣営と反対する陣営のいずれも、単独では過半数の61議席に達しない状況が続いており、選挙後の政権の枠組みは依然として不透明である。こうした状況のなか、選挙後の連立形成に影響を与える可能性があるのが、「イスラエルの人々」党と「予備役・経済」党である。両党はいずれも、阻止条項である得票率3.25%前後で推移しており、議席を獲得するか否かによって、国会内の勢力分布が変化する可能性がある。両党とも超正統派に対する広範な兵役免除に否定的であり、両党が政権樹立に必要な勢力となった場合には、超正統派政党との関係や徴兵制度をめぐる政策調整が重要な争点となる。こうした調整が困難となった場合には、従来の連立の枠組みが大きく再編される可能性も否定できない。
(主任研究員 平 寛多朗)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/







.png)
