中東かわら版

№74 リビア:東西統一に立ちはだかる司法の分断

 2026年8月30日、国連リビア支援ミッション(UNSMIL)主導の下、西部の国民統一政府(GNU)側とリビア国民軍(LNA)のハフタル総司令官率いる東部勢力側の代表各4名からなる「4+4」委員会が、選挙制度の枠組みの見直しなどに関する合意書に署名した。9月8日、国連安全保障理事会はこの合意に関して、制度統合に向けた一歩であると評価した。一国二政府状態が続くリビアにおいて、こうした東西統一の動きが進む一方、現地メディアでは両勢力間の相互不信をうかがわせる報道が続いている。

 リビア西部を拠点とするメディア『リビア・オブザーバー』は、親ハフタル勢力のウェブサイトやSNS等の情報を基に、9月8日付で、東部を拠点とするLNAのサッダーム・ハフタル副司令官の指示を受け、軍の非常事態が宣言され、各基地で警戒態勢が引き上げられたと報じた。同メディアによれば、同時期にはベンガジやシルト周辺で多数の軍用車両の移動も確認されたという。また同メディアは、ザーウィヤの石油施設等をドローンで攻撃した容疑で複数の人物が拘束されており、その中にLNAと関係を有する人物が含まれているとの情報も報じている。
 同日、東部ベンガジを拠点とするメディア『ウンワーン』は、LNAのサッダーム・ハフタル副司令官が第4歩兵旅団およびカルダービーヤ旅団の司令官らと会談し、部隊の即応態勢や能力強化等について協議したと報じた。
 これに先立つ8月23日、『ウンワーン』は、LNA傘下の軍事検察局が、テロ関連犯罪等で有罪判決を受けた10人に対する銃殺刑を執行したと発表したと報じた。これに対し西部の『リビア・オブザーバー』は、西部のGNUがその処刑を非難していることを報じた。さらに、「密室での死」という題名の記事を掲載し、処刑された人々の身元や裁判の記録が公表されていないことや、一部の関係者が公正な裁判を受ける権利が保障されていなかったと主張していることを指摘した。その上で、こうした問題が、東西の軍事・政治機構の統合に影響する可能性があるとの見方を示した。

評価 

 今般『リビア・オブザーバー』が報じたLNAの動きが何を意味するものであるかは、現時点では明らかではない。『ウンワーン』の報道に従えば、サッダーム・ハフタル副司令官が主要部隊の司令官らと会談し、部隊の即応態勢等を確認した上で指示を与えたものとも捉えられる。LNAはリビア南部における治安の安定化を掲げており、南部での任務に向けた動きであった可能性もある。また、8月10日には、LNAの軍情報部門トップであるファウジー・マンスーリ軍情報部長が、ベンガジで車に仕掛けられた爆発物によって暗殺される事件が発生した。LNAは同事件をテロ行為と位置づけていることから、テロ対策を念頭に置き警戒態勢を強化であった可能性も否定できない。

 こうした可能性がある中、SNS等の情報を基に『リビア・オブザーバー』がLNAの動きを大きく報じたこと自体、西部においてLNAの軍事的な動きが依然として警戒されていることを示唆している。リビアでは、2020年10月に東西双方が停戦に合意して以降、東西間の大規模な戦闘は約6年間再開していない。この停戦を背景として東西統一に向けた協議が重ねられ、先般の「4+4」協議体による合意にもつながった。それにもかかわらず、今般のLNAの部隊運用をめぐる情報が西部メディアによって警戒を伴って報じられたことは、LNAが再び西部に対する軍事行動を選択する可能性が、西部側の認識から完全には消えていないことをうかがわせる。

 司法をめぐる今般の一連の報道は、東西の統一に向け、より深刻な問題となる可能性がある。UNSMILが主導するリビアの統一に向けた動きでは、政府機関や軍の統合に焦点が当てられることが多いが、国家機構の統合には司法も当然含まれる。今般報じられた東部での銃殺刑に関して、東部の『ウンワーン』は、「刑の執行に必要なすべての法的および行政的措置が講じられた」と報じている。これに対し、西部のGNUは、軍事裁判所の判決に基づく処刑を「法の支配を脅かす極めて危険な事態」と非難した。このことは、同一の刑執行について、その適法性をめぐる認識が東西で大きく異なっていることを示している。

 さらに、被告人や受刑者の権利をどのように保障するかという点においても、東西間に認識の隔たりがあることがうかがえる。GNUは今般の銃殺刑について、テロ事案であったとしても公正な裁判を受ける権利を保障する必要があるとの立場を取り、今般の銃殺刑に至る経緯は民間人の権利を侵害するものだと非難した。一方、東部の軍事検察側は、GNUが指摘する軍事裁判による民間人の権利侵害については問題としていない。このことは、被告人や受刑者の権利をどこまで保障すべきかという点でも、東西間に隔たりが存在することを示している。

 リビア西部のザーウィヤでは、武装勢力間の衝突が度々生じている。今後、同地域の治安を安定化させるためには、国家の統制下にない武装勢力の摘発や解体を行っていくことが必要となる。その際、拘束された武装勢力の構成員をどのような司法手続きの下で処遇するのかをめぐり、東西間で対立が生じる可能性がある。軍や政治機構の統合が進んだとしても、司法手続きの適正さや民間人の権利保障といった、国家を統御する根本的な原則について東西間に大きな隔たりが残るのであれば、それは東西統一を阻む要因となり得る。今般の銃殺刑をめぐって東西の当局が大きく異なる評価を示したことは、そうした潜在的な亀裂を示す一例と言える。

(主任研究員 平 寛多朗)

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