中東かわら版

№73 ヨルダン:イランによる攻撃地点の拡大とヨルダンへの影響

 2026年9月2日付の国営通信『ペトラ』は、ヨルダンがイラン領内から発射されたミサイル攻撃を受け、防空システムが領空を侵犯した13発の弾道ミサイルのうち10発の迎撃・破壊に成功したとする軍の発表を報じた。発表によれば、迎撃・破壊されなかった残りの3発は、人口密集地から遠く離れた地域に落下した。また、同攻撃による負傷者や死者は報道時点で報告されていない。

 中東メディアの『アルジャジーラ』は、同攻撃はティーティン・キャンプとして知られるヨルダンの米海兵隊の兵舎を狙ったものであり、ミサイルは軍事施設と攻撃ヘリコプターに命中したとする、イランの革命防衛隊の発表を9月1日付で報じた。

表 7月以降にヨルダンにおいてイランの標的となった場所

報道日

標的場所

7月9日

ムワッファク・サルティ空軍基地

7月12日

プリンス・ハサン空軍基地

7月13日

プリンス・ハサン空軍基地

7月16日

ムワッファク・サルティ空軍基地

7月18日

ムワッファク・サルティ空軍基地

7月19日

ムワッファク・サルティ空軍基地

7月20日

ムワッファク・サルティ空軍基地
アカバ空港

7月21日

ムワッファク・サルティ空軍基地

7月22日

プリンス・ハサン空軍基地
キング・ファイサル空軍基地

7月24日

ムワッファク・サルティ空軍基地

7月29日

ムワッファク・サルティ空軍基地

7月30日

ムワッファク・サルティ空軍基地

8月30日

ムワッファク・サルティ空軍基地
キング・フセイン空軍基地

9月1日

ティーティン・キャンプ

(出所)中東メディア『アルジャジーラ』。具体的な標的が報じられたものだけを記載。

 

(グーグルマップを使用し筆者作成。赤のポイントがキング・フセイン空軍基地。青丸がイランによって度々攻撃されているムワッファク・サルティ空軍基地とプリンス・ハサン空軍基地のある地域。赤丸がキング・ファイサル空軍基地。緑丸がアカバ空港と今般攻撃されたティーティン・キャンプのある地域。)

評価 

 今般の攻撃は、米国が9月1日にイランを空爆したことに対する報復だとみられる。少なくとも7月以降のヨルダンに対するイランの攻撃には明確な特徴がみられ、これまでに確認されている標的はいずれも、ヨルダンの都市部や重要インフラ施設ではなく、米軍が駐留・利用する施設である。イランにとってヨルダン領内は、米国への報復の場となってきたと言える。特に米軍が使用する空軍基地が繰り返し標的となっており、米軍の主要拠点の一つであるムワッファク・サルティ空軍基地には攻撃が集中してきた。

 一方、今般の攻撃では、空軍基地ではなくティーティン・キャンプが標的となった。ティーティン・キャンプはヨルダン南部のアカバ近郊に位置する軍事施設であり、米海兵隊がヨルダン軍との訓練などに繰り返し使用してきた。また、米中央軍の管轄地域で最大級の多国間軍事演習である「イーガー・ライオン(Eager Lion)」でも同施設が使用されている。同演習は、多国間環境下での部隊の統合や現実的な地形での作戦行動、各国軍間の連携強化を図る機会となっている。

 イラン側は、今般の攻撃で同施設の攻撃ヘリコプターなどにミサイルが命中したと主張している。しかし、これまでイランが繰り返し攻撃してきたムワッファク・サルティ空軍基地とは異なり、公開情報からは、ティーティン・キャンプが米軍の主要な航空作戦拠点として位置づけられていることは確認できない。むしろ、米軍とヨルダン軍などによる共同訓練の拠点としての性格が強い。

 一方で、同施設が公開情報からは確認できない、米軍にとってより重要な機能を担っている可能性も完全には排除できない。仮にそうであるならば、今般の攻撃は、イランが公開情報では把握しにくい米軍関連施設の機能や重要性についても一定の情報を有している可能性を示すものとなる。他方、実際にそうした重要な機能を有していないのであれば、公開情報だけでは軍事的重要性が高いとは確認できない施設が標的となったことは、イランによる攻撃対象が、対イラン作戦に直接関与しうる施設から、米軍が利用する施設全般へと広がりつつある可能性を示している。

 ヨルダンの主要な外貨獲得手段の一つである観光業は、2026年に入り地域情勢の影響を受けた。実際、ロイヤル・ヨルダン航空は、米・イラン間の軍事的緊張の高まりや度重なる領空閉鎖の影響により、ヨルダンへの渡航需要や観光活動が減少し、同社の財務・運航実績が2026年予算で設定された目標水準を下回っていると述べている。アカバはヨルダン有数の観光地であるとともに、港湾、国際空港、陸上国境を通じて国外とつながる重要な玄関口でもある。その近郊がイランによる攻撃対象となり得ることが広く認識されれば、アカバへの観光需要だけでなく、ヨルダンへの人の流れにも新たな悪影響を及ぼす可能性がある。

 ヨルダンは、安全保障の強化を重要な理由の一つとして、長年にわたり米国との軍事・安全保障関係を強化してきた。しかし、米軍が利用するヨルダン国内の施設がイランによる報復攻撃の対象となる状況が続けば、米国との安全保障協力そのものが、ヨルダンに新たな安全保障上のリスクをもたらしうるという逆説的な状況が生じている。

(主任研究員 平 寛多朗)

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