中東かわら版

№72 チュニジア:ミネラルウォーターの価格高騰と高まる国民の不満

 2026年8月19日、商業省は、ペットボトルのミネラルウォーターの価格高騰を受け、最高価格と利益率に関する新たな規制を施行した。今般決定された一般販売価格の最高限度額は以下の通りである。

  0.5リットル・ボトル 600ミリーム(約33円)

  1リットル・ボトル 800ミリーム(約44円)

  1.5リットル・ボトル 850ミリーム(約47円)

  2リットル・ボトル 950ミリーム(約52円)

利益率に関しては、1本当たりの粗利益率の上限が、卸売・小売ともに15%に設定された。

 価格規制が施行された翌日20日、首都チュニスで数百人規模のデモが発生した。デモの参加者は「渇き」、「暗闇」といったプラカードを掲げ、停電・飲料水不足といった問題に関してサイード大統領に抗議の声を上げた。「チュニジア経済社会権フォーラム(FTDES)」によれば、ここ数週間、国内全土で数百のデモが記録され、その多くが飲料水の不足と停電に対する抗議であった。

 同日、労働条件の改善、賃上げ等を求めて、燃料トラックの運転手がストライキを行った。これにより石油地区から給油所などへの燃料供給が停止した。チュニジア・メディア『モザイクFM』によれば、このストライキはチュニジア労働総同盟(UGTT)が組織したものではなく、現場の運転手によって突発的に行われたものであった。

 チュニジアでは通常、UGTT傘下の労組などが事前にストライキを通告し、要求をめぐる交渉が行われる。これに対し、今回のストライキはUGTTが組織したものではなく、事前通告なしに実施された点で異例であった。

評価 

 今般の一連の出来事と国民の不満の背景には、猛暑による電力需給の逼迫がある。今夏、熱波がチュニジアを襲い、一部の地域では7月に50度を記録した。8月25日においても国内各地で最高気温が41~47度に達し、翌26日にはチュニジア北西部のジャンドゥーバや首都チュニスから南方160キロ地点にあるカイラワーンで49度に達すると予想された。こうした中、電力供給が逼迫し、チュニジア各地で計画停電が行われている。25日にも13時~17時、22時~翌日1時まで電力の供給を停止する可能性があると電力・ガス会社は発表している。

 この電力不足と停電によってチュニジアで「水不足」が生じている。7月29日付のチュニジア・メディア『モザイクFM』は、頻発する停電によってポンプ場が影響を受け、断水が引き起こされているとの指摘を報じた。また、8月14日付の同紙は、停電によってミネラルウォーターの生産ラインの正常な稼働が妨げられ、それにより供給量が低下しているというノンアルコール飲料生産者組合会の指摘を掲載した。さらに、8月22日には倉庫に隠されていた8万本以上のミネラルウォーターが当局によって押収されるなど、流通段階での在庫の隠匿も確認されている。こうした複数の要因がミネラルウォーターの品薄や価格上昇につながった。

 8月21日付のチュニジア・メディア『ディーワンFM』によれば、チュニジアでは水道水の水質悪化と、国民の水道水に対する不信感を背景としてミネラルウォーターの消費量が多い。実際、『モザイクFM』によれば2020年におけるチュニジアでの一人当たりのミネラルウォーターの消費量は年間225リットルに達しており、世界平均の年間40リットルを大きく上回っていた。今夏は猛暑や断水によってボトル水への需要がさらに高まっているとみられ、その品薄や価格上昇は国民生活への負担を一層強めたと考えられる。

 7月後半にはUGTTが、生活費の高騰、公共サービスの悪化等に関して、それは一時的なものではないとの見解を示し、政策の見直しを訴えた。今般の商業省によるミネラルウォーターの価格設定では、合わせて鶏肉の価格設定も行われた。こうした生活費の高騰や生活環境の悪化に加えて、今夏の「水不足」および停電が重なったことで、国民の間に蓄積していた不満が一層表面化し、抗議行動の急増につながった。また、同様に社会・経済的不満が高まる中、通常の手続きを経ない異例の突発ストも発生したとみられる。

 電力需給の逼迫やミネラルウォーターの供給不足は、猛暑が収まるにつれて緩和される可能性があるが、公共サービスをめぐる問題等でサイード政権に対する政治的・社会的不満は着実に蓄積している。8月20日に行われたデモは、ナファス運動が呼びかけたものであったと報じられている。同運動は、政府の失政や不正を止めるために5月に新しく誕生し、サイード大統領に反対する政党や有識者らを結集させることを目指している。また、失業率は2026年第2四半期に14.9%と前期からわずかに低下し、15~24歳の失業率も35.4%と低下したものの、依然として高い水準にある。大学卒業者の失業率に関しては、前期の24.2%から26.6%へ上昇している。こうした高学歴層の雇用問題を背景に、大学卒業者によるデモも報じられている。

 サイード大統領は、生活必需品の不足や公共サービスの悪化などをめぐって国民の不満が高まった局面で、首相を交代させてきた。今回の水不足や停電を受けて、再び首相の交代に踏み切るかは不透明である。一方、こうした一時的な問題が緩和されたとしても、生活費や雇用、公共サービスなどをめぐる根本的な問題が解決せず、サイード政権に対する不満が蓄積していけば、2027年に予定される議会選挙において、その不満が、政権に批判的な候補への支持の拡大や、低い投票率という形で表れる可能性もある

(主任研究員 平 寛多朗)

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