中東かわら版

№71 ヨルダン:ハッサーン内閣、新たに2閣僚を副首相に任命

 ハッサーン内閣では、これまで2度、閣僚の移動が行われた。2025年8月に初の内閣改造が行われ、2026年7月にはバッカール労働相の辞任に伴いカターミーン運輸相が同相を兼任することになった。2026年8月11日、新たな内閣改造が行われ、勅令によって承認された。閣僚リストは、以下のとおりである。

表 ハッサーン内閣の閣僚リスト

(★太字が内閣改造による役職変更)

首相兼国防相

ジャアファル・ハッサーン

2024/9~

副首相兼外務・移民相

アイマン・サファディー

2017/1~外相、2020/10~副首相を兼務

水・灌漑相

ラーイド・アブー・サウード

2023/9~

公共事業・住宅相

アフマド・マーヒル・アブー・サマン

2022/10~

★副首相兼地方行政相

ワリード・マスリー

前地方行政相

政府広報担当相

ムハンマド・ムーマニー

2024/9~

法相

バッサーム・タルフーニー

2024/9~

観光・遺跡相

イマード・ヒジャージーン

2025/8~

農相

サーイブ・フライサート

2025/8~

産業・貿易・供給相

ヤアルブ・クダー

2024/9~

エネルギー・鉱物資源相

サーリフ・ハラーブシャ

2021/10~

★副首相兼経済問題担当国務相

ムハンナド・シャハーダ

前経済問題担当国務相

国務相

アフマド・ウワィディー

2024/9~

★教育・人的資源開発相

アズミー・マハーフザ

前教育相兼高等教育・科学研究相

投資相

ターリク・アブー・ガザーラ

2025/8~

ワクフ・イスラーム聖地担当相

ムハンマド・ハラーイラ

2019/11~

内相

マージン・ファラーヤ

2021/3~

保健相

イブラーヒーム・ブドゥール

2025/8~

社会開発相

ワファー・バニー・ムスタファー

2022/10~

環境相

アイマン・スライマーン

2025/8~

外務担当国務相

ナーンシー・ナムルーカ

2024/9~

計画・国際協力相

ザイナ・トゥーカーン

2022/10~

運輸相兼労働相

ニダール・カターミーン

2025/8~(運輸相)
2026/7~(労働相)

政務・議会担当相

アブドゥルマナアム・ウーダート

2024/9~

首相府担当国務相

アブドッラティーフ・ナジュダーウィー

2025/8~

法律問題担当国務相

ファイヤード・クダー

2024/9~

財務相

アブドゥルハキーム・シブリー

2024/9~

文化相

ムスタファー・ラワーシダ

2024/9~

公的部門発展担当国務相

バドリヤ・バルビーシー 

2025/8~

青年相

ラーイド・アドワーン

2025/8~

デジタル経済・起業担当相

サーミー・スマイラート

2024/9~

(出所)国営通信『ペトラ』など各種情報をもとに筆者作成。

評価 

 今般の内閣改造の特徴は、サファディー副首相兼外相に加え、新たに2名の閣僚に副首相を兼任させた点にある。これは、ヨルダンが推進する経済政策の指針「経済近代化ビジョン(EMV)」の第2次実施計画(2026~2029年)が進められる中、同ビジョンに基づくプロジェクトの実施を円滑化する狙いがあるとみられる。

 8月11日付の国営通信『ペトラ』によれば、今般の内閣改造に合わせ、「経済近代化ビジョン・開発委員会」をシャハーダ副首相兼経済問題担当国務相の管轄下に置くことが閣議で決められた。同大臣は、2024年のハッサーン内閣発足以降、たびたび同内閣の経済政策について対外的な説明を行ってきた人物である。また、ハッサーン首相がアブドッラー2世国王にEMVの進捗を報告する会合に同席するなど、政府の経済政策やEMVの推進において重要な役割を担ってきた。今般、副首相に任命され、さらにEMV・開発委員会がその管轄下に置かれたことで、EMVの推進・監督を担う中心人物としての立場がより明確になったといえる。

 マスリー副首相兼地方行政相に関しては、ハッサーン内閣発足以降、地方行政相として地方自治体の監督を行ってきた。それ以前にも、地方自治問題相や、アンマン、イルビドといった大都市の自治体の要職を歴任するなど地方行政に長く携わってきた。また運輸相を務めた経験もある。EMVでは、ヨルダンの都市間の接続の改善や、陸路で隣国と接続することで物流を向上させることが掲げられている。今般の内閣改造で、マスリー副首相兼地方行政相は、「サービス・インフラ・社会問題委員会」の委員長にも任命されており、地方行政にとどまらず、EMVが掲げる方向性とも整合する形で、地方開発やインフラ整備を横断的に調整・監督する役割を担うことがより明確になったといえる。

 2025年8月の内閣改造では、「実務内閣」としての性格を打ち出すとともに、内閣が特に重視する分野の閣僚を交代させた。実際、同改造で入閣したカターミーン運輸相の下では、UAEとの23億ドル規模の鉄道プロジェクトに関する実施協定が締結され、フライサート農業相の下では過去最高の農業輸出額が記録された。両閣僚は就任後、活発に活動しており、その動向もヨルダン・メディアで頻繁に報じられている。もちろん、こうした成果は前任者までの取り組みが前提となる。しかし、ハッサーン首相が重要分野を任せる人物として一定の信任を置いているとみることはできる。今般の改造で、シャハーダ経済問題担当国務相とマスリー地方行政相が副首相に任命されたことは、ハッサーン内閣がEMVの実施を一層推進するとともに、地方開発やインフラ整備を含む政策の実施体制を強化する意思を示したものといえるだろう。

 他方、今般の改造では閣僚の顔ぶれを変更することなく、既存の閣僚に副首相を兼任させることで、関連政策の調整や進捗管理を担う責任の所在を明確にする形を取った。しかし、副首相と各大臣との権限関係が必ずしも明確になっているわけではない。副首相が自身の担当分野に関係する複数の大臣を横断的に調整する立場にあるのか、また副首相の権限と各大臣が従来有する権限をどのように整理するのかが明確でなければ、省庁間の調整や政策の実施過程で権限の重複や混乱が生じる可能性がある。今後、副首相と各大臣との役割分担や権限関係を明確化していくことが課題になるとみられる。

(主任研究員 平 寛多朗)

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