中東かわら版

№7 ヨルダン:「ヒジャーズ鉄道」への動きと安全保障

 2026年4月7日、カターミーン運輸相は、シリアのバドル運輸相、トルコのウラルオール運輸・インフラ相とアンマンで三カ国運輸相会談を開催し、運輸分野での協力、統合を強化していく三国間覚書に署名した。

 同日、三カ国の運輸相はヨルダン・ヒジャーズ鉄道公社を訪問した。その際、歴史的遺産を保存しつつ、鉄道のインフラを活用して地域経済統合を促進し、歴史的輸送ルートを復活させるという共通の取り組みについて議論した。   

評価 

 ヨルダンは、2025年1月にシリアにシャラ政権が誕生して以降、ヨルダンのアカバ港からシリアを経由して、シリア・トルコ間のバーブ・ハワー国境検問所を抜ける貿易ルートの確立を進めてきた。2026年2月には、ヨルダンのトラックが15年ぶりに同検問所を通りトルコへ入国した。今般の三国間覚書は、このルートを使用した地域運輸システムの構築・強化が目的となっている。

 この覚書は「輸送の円滑化」、「手続きの共通化」のみならず「鉄道の連結性」を視野に入れている。これは、トルコ・シリア・ヨルダンを鉄道で接続する構想を含意するものであり、その文脈でヒジャーズ鉄道の復活も議題に上っているとみられる。ヒジャーズ鉄道は、かつてダマスカスからヨルダンを経てメディナに至った歴史的鉄道である。その復活が実現すれば、ヨルダンは物資の通過点としてだけでなく、将来的には観光を含む歴史的移動ルートの結節点となる可能性がある。

 他方、ヨルダンにとってヒジャーズ鉄道を含むトルコ・シリア・ヨルダン回廊は、食料の安全保障を多角化する上でも重要だとみられる。2026年2月28日に始まったイスラエル・米国とイランの軍事衝突は、地域のサプライチェーンに大きな影響を与えた。ヨルダンでは3月後半に入り、政府から買いだめを行わないよう国民にメッセージが発せられ、同時にヨルダンの農作物自給率が61%に達していることが強調されていた。当局が買いだめを控えるよう呼びかけ、自給率や備蓄の安定を繰り返し強調したことは、一部で供給不安が意識されていた可能性を示唆している。

 政府は、紅海に面するアカバ港が高効率で稼働していることを強調していたが、逆の言い方をすればアカバ港が攻撃を受ける、あるいは紅海の航行に支障が出て同港が機能不全に陥ることは、ヨルダンの物流に深刻な影響を及ぼす可能性があるということである。ヨルダン政府も、2月28日以降、陸路による輸送手段の拡大を図っており、地中海に面するシリアのラタキア港を利用できるよう同国との連携を模索している。このことはヨルダン政府も、地域情勢の悪化がヨルダンの物流・供給網に影響を与えうると認識していたことを示唆している。

 ヒジャーズ鉄道自体はダマスカス・ヒジャーズ間をつなぐ路線であり、トルコとは接続されていない。しかし、同鉄道が復活しトルコと接続された「ヒジャーズ鉄道」が実現されれば、ヨルダンはアカバ港だけでなく、シリア経由でトルコ・地中海方面にも接続する供給網を持つことになる。同鉄道をめぐる動きは観光や地域経済統合の文脈にとどまらず、ヨルダンの物流安全保障を強化する試みとしても位置づけられる。

【参考】

ヨルダン:トルコとサウジをつなぐ壮大な構想」『中東トピックス』No.T25-11。※会員限定。

ヨルダン:シリアとの経済的関係強化の背景」『中東トピックス』No.T25-02。※会員限定。

(主任研究員 平 寛多朗)

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