中東かわら版

№66 イラク:ホルムズ海峡を代替する石油輸出経路開発の進捗状況

 イラクは、ペルシャ湾の最も奥に位置しており、陸路で隣接する諸国との間に大規模な石油輸出パイプラインを持たないことから、2026年3月以来ホルムズ海峡の通行が不安定になると大きな影響を受けている。2026年8月12日付『ナハール』(レバノンのキリスト教徒資本の日刊紙)は、「ホルムズを回避して地中海に至るパイプラインに賭けるイラクは成功するか?」と題し、石油輸出でホルムズ海峡への依存を軽減しようとするイラクの取り組みを要旨以下の通り報じた。

 

*イラクの石油収入は、3月以来年間ベースで76%減少した。イラクからの石油輸出量は、平時の10分の1にも達しない日量33万バーレルに減少している。

*南部のバスラと、北部のドホーク県との間に輸送能力日量200万バーレルのパイプラインを敷設する計画がある。事業は150億ドル規模で、アメリカのシェブロン社、TI Capital社、カタルのUCCホールディング社、イラクの諸企業の連合が事業を実施する。ただし、この計画は現在初期合意と採算性研究の段階にあり、イラクの石油輸出に直ちに影響を与えるわけではない。

*バスラとハディーサ(アンバール県)を結ぶ、輸送能力日量250万バーレルのパイプラインを敷設する事業が第一段階にある。この段階の事業規模は15億ドルである。事業はスーダーニー前首相時代に認可を受け、複数の中国企業が実施する。

*現在稼働中の、キルクークとトルコのジェイハンとを結ぶパイプラインは、これまで日量25万バーレルの石油を輸送していたが、イラク政府はこれを日量77万バーレルで稼働させることを目指している。ただし、2025年のイラクの石油輸出量は日量345万バーレルで、このパイプラインを通じた輸出量は限定的である。

*キルクークとシリアのバーニヤース港を結ぶパイプラインは、2003年のアメリカのイラク侵攻で破壊され、以後稼働していない。このパイプラインの再稼働は、シリアの治安・政治情勢が理由で進んでいない。2026年4月にはイラクから燃料を積んだタンク車299台がバーニヤースに向けてシリアに入ったが、輸送量はごくわずかでありホルムズ海峡を通じた原油輸出の現実的な代替とはならない。

*バスラとヨルダンのアカバとを結ぶパイプライン計画も、稼働段階ではない。現在のイラク・ヨルダン間の協力は、限られた量の石油をイラクからヨルダンへ陸路で輸送するだけだ。

*イラクの石油省は、サウジとの間でイラク南部とサウジのヤンブウ港とを結ぶ古いパイプラインの再開の可能性を協議している。しかし、この経路は1991年のイラクのクウェイト侵攻によって停止しており、利用するには両国政府間の政治・治安・技術的合意が必要である。

評価

 アメリカとイスラエルによるイラン攻撃以来、イラクにとってホルムズ海峡を経由しない石油輸出経路の開拓は第一優先事項となった。しかし、現時点で論じられている経路や事業は、いずれも輸送力や実現の可能性の面で代替経路として十分とは言えない。また、現時点でのイラクの石油輸出はその多くが本邦を含むアジア向けの模様であり、地中海方面に石油輸出経路を開くことでヨーロッパ方面での市場を獲得できるかとの問題もある。しかも、これの諸事業は多額の投資、通過国との合意、パイプラインの通過経路全体での安定した治安環境を必要としているため、その実現は容易ではない。現在、アメリカの後押しでイラクとシリアのバーニヤースとの間のパイプラインの拡張・再建事業が進んでいるとされるが、上記の記事を見る限り実際に事業が実施され、本格的な稼働に至るまでには時間がかかりそうだ。

 イラクでは、石油収入の減少により公務員給与や年金の支給に必要な現金が不足しつつある。イラク政府は、ホルムズ海峡に代わる石油輸出経路の開拓と稼働に長時間を要する見通しの中で眼前の資金調達に追われている。

(特任研究員 髙岡 豊)

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