№62 パレスチナ:ハマースの新政治局長とその課題
2026年7月20日、ガザ地区を実効支配するハマースは、ハリール・ハイヤ氏を同組織の実質的指導者にあたる政治局長に選出したと発表した。同ポストは2024年7月にハニーヤ政治局長、同年10月にシンワール政治局長がイスラエルによって殺害されて以降空席となっていた。新しい政治局長が選出されるまで、ハマースの政策方針の決定などは、主にカタルとトルコに拠点を置く指導者5名からなる暫定指導評議会が行っていた。
政治局長選出に向けた手続きは2026年1月に始まり、主にハイヤ氏とハーリド・ミシュアル氏の間で争われた。ハイヤ氏は、ハマースが創設されたときのメンバーの一人であり、ガザ地区の副政治局長を務めた人物である。ガザ地区出身である同氏は、同地区で活動していたが、ハマースがイスラエル南部を急襲した2023年10月7日の前にカタルへと移動し、現在も同国を拠点としている。また同氏は、暫定指導評議会の指導者の一人であり、イスラエルとの間接的な停戦・人質解放交渉や、停戦合意の履行をめぐる協議で主要な交渉役を担ってきた。
ミシュアル氏は、ヨルダン川西岸地区生まれであり、ガザ地区で暮らした経験はないが、1996年から2017年までハマースの政治局長を務めていた。同氏の後任がハニーヤ元政治局長となる。現在、海外支部の責任者であるミシュアル氏は、カタルを拠点とし、ハイヤ氏と同様、暫定指導評議会の指導者の一人となっている。
評価
今般、ハイヤ氏が新たな政治局長に選出されたが、同氏の就任だけでガザ情勢が好転するとは限らない。イスラエルは、自国南部に対する脅威を取り除くためとして、ハマースの武装解除に加え、ガザ地区における同組織の政治的・軍事的影響力の排除を求めている。ハマースは2026年7月6日、ガザ地区の行政権を国家ガザ行政委員会に移譲する姿勢を示したものの、完全な武装解除には応じていない。イスラエルは、ハマースの軍事力や統治能力を排除するとの立場から、ガザ地区に対する軍事行動を継続している。このため、ハイヤ氏が武装解除や停戦合意の履行をめぐってどのような方針を示すかは、今後のガザ情勢を左右する重要な要素となる。
他方、イスラエル側では、ハイヤ氏に対する警戒感が強い。イスラエルの主要メディアは、同氏をイランに近い人物としてたびたび報じている。実際、6月初旬には同氏とイランのアラーグチー外相との電話会談がパレスチナ・メディアで報じられている。また、イスラエルのメディアや専門家の間では、ハイヤ氏は、イスラエル軍がガザ地区から完全に撤退するまで武力闘争を継続する立場にあり、さらにヨルダン川西岸地区の行政を担うパレスチナ自治政府との実質的な和解にも積極的に動かないとの見方が示されている。
ハイヤ氏とイランとの関係が、ハマースの具体的な政策決定にどの程度影響しているかは明らかではない。また、同氏が今後、武装解除をめぐる交渉でどこまで柔軟な姿勢を示すかは不透明である。しかし、イスラエル側で見られるこうした見方は、ハイヤ氏の就任だけで、ハマースに対するイスラエル側の脅威認識が払拭される可能性が低いことを示している。
イスラエル紙『Times of Israel』は7月20日、ハマースの軍事部門であるカッサーム旅団の代表者が、政治局長に選出されたハイヤ氏への「全面的な支持」を表明したと報じた。カタルにいるハイヤ氏の指示をガザ地区のカッサーム旅団がどの程度忠実に行動するかは不透明であるが、このことは同氏がハマースの政治部門だけでなく、軍事部門からも組織内の正統性を認められたことを示している。ハイヤ氏は、ハマースを代表してイスラエルとの間接的な停戦交渉を担ってきた。一方、ハマースは完全な武装解除に応じておらず、ハイヤ氏が政治局長に就任しても武装解除を拒否するとみられる。今後もカタルにいる指導者の下でガザ地区のハマースが武装を維持し、その脅威を排除しようとイスラエルが空爆を継続することで、ガザ地区のパレスチナ住民が引き続き大きな犠牲を強いられる可能性がある。
(主任研究員 平 寛多朗)
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