中東かわら版

№60 ヨルダン:イスラエルによるイランのミサイル迎撃

 2026年7月17日、ヨルダン国営通信社の『Petra』は、ヨルダンの防空システムが領空に侵入したイランのミサイル3発を撃墜したと報じた。翌18日には、ヨルダン空軍が過去24時間に同国領空へ侵入したドローン4機を撃墜したほか、防空システムがイランのミサイル10発を迎撃・撃墜したと報じた。『Petra』は、これらの迎撃作戦による人的・物的被害はなかったとしている。

一方、18日付の『Jordan Times』は、米国中央軍(CENTCOM)が、17日にヨルダンでイランから発射された弾道ミサイルおよびドローン攻撃に対する防衛の際、米軍兵士2名が死亡、1名が不明になったと発表したと報じた。また、米軍兵士4名がヨルダン国内の病院へ搬送されたと伝えた。

 他方、イスラエルの主要メディアは19日、イランからヨルダン南部のアカバ方面に向けて発射されたミサイルを、米国の防空システムが迎撃したと報じた。『Jerusalem Post』は、この迎撃には米国のイージス・ミサイル防衛システムが使用されたと伝えている。また、『Jerusalem Post』および『Times of Israel』は、イスラエル国防軍が、隣接するエイラートを脅かす可能性があったミサイルの破片を破壊するため、迎撃弾を発射したと報じた。ヨルダンのアカバは、国境を挟んでイスラエルの港湾都市エイラートに隣接している。

 こうした中、7月19日、ヨルダン外務省は、在アンマンのイラン臨時代理大使を召喚し、ヨルダンに対する継続的な攻撃について強く抗議するとともに、攻撃を直ちに停止するようイラン政府に要求した。同日、サファディー外相は、中東諸国の外相と集中的に電話会談を行った。

(ヨルダン、イスラエルの主要メディアを基に筆者作成。)

評価 

 アカバを標的としたとされる今般の攻撃について、ヨルダン側の公式発表は、具体的な攻撃対象がアカバであったことや、米軍およびイスラエル軍が迎撃に関与したことを明らかにしていない。この背景の一つには、ヨルダン国内の政治的事情があるとみられる。ヨルダンには多数のパレスチナ系住民が居住しており、ガザ地区やヨルダン川西岸地区の情勢悪化を受け、国内ではイスラエルに対する反発が強い。こうした中、イスラエルとの安全保障協力や、ヨルダンの防空体制がイスラエル防衛にも寄与していると受け取られかねない情報を公表することは、国内世論の反発を招く可能性がある。実際、2024年にヨルダンがイスラエル方面へ飛来したイランのドローンを迎撃した際には、ヨルダンがイスラエルを防衛しているとの批判が国内で生じた。2025年にイランのミサイルを迎撃した際にも、同様の批判や、米国との軍事協力に対する反発がみられた。

 イスラエル側も、このようなヨルダンの事情を認識しているとみられる。7月19日付のイスラエル紙『Israel Hayom』は、両国間では強固な安全保障協力は継続しているが、「表向きの言説」と「水面下の活動」の間には摩擦があると指摘している。

 今般の攻撃はイスラエルを狙ったものではないとみられる。7月20日付の『Jerusalem Post』は、イラン革命防衛隊が、アカバへの攻撃によって航空機を損傷させたと主張したと報じている。イスラエルの「迎撃」は、自国に落下する可能性があった破片に対して行ったものに過ぎない。しかしそれでも、米軍がミサイル本体を迎撃し、イスラエル軍がその破片に対応したという事実は、ヨルダンの防空体制が米国・イスラエルの地域防空網と事実上一体化しているとの印象を国内外に与えかねない。ヨルダンの『Petra』が今般の攻撃を報じていないのは、そうしたイメージを避ける意図があった可能性がある。なお、ヨルダンは、国内に米軍基地は存在しないという立場を取っており、二国間防衛協力協定により米軍がヨルダンの基地に駐留しているだけであるとの主張を繰り返し述べている。

 今般の攻撃について、ヨルダン側の公式発表が、具体的な攻撃対象がアカバであったことを明らかにしていないもう一つの背景には、国内の社会不安を抑制する意図があった可能性がある。7月19日にサファディー外相による電話会談が集中した背景には、米軍側に人的被害が生じたことや、米国およびイスラエルの防空システムが作動したことを受け、戦闘の再拡大が懸念される中でヨルダンが状況説明を行ったとみられる。一方、ヨルダン唯一の港湾都市であるアカバは、同国の食料・物資の供給網において極めて重要な位置を占める。ヨルダンが輸入する小麦はアカバ港に到着し、同地を含む国内各地の貯蔵施設へ輸送される。このため、アカバ港や周辺施設が大きな被害を受け、港湾機能が停止すれば、食料を含む国内の供給網に深刻な混乱が生じる可能性がある。

 『Petra』は、イランの攻撃によって米国兵士2名が死亡したことも報じていない。具体的な死亡時の状況は公表されていないが、その人的被害はイランのミサイルが防衛網を突破したことを想起させる。米軍兵士の死亡やアカバへの攻撃を政府系媒体が詳しく伝えれば、イランの攻撃がヨルダンの重要施設や物流網に深刻な被害を及ぼし得るとの不安を国内で高める可能性がある。

 今般のアカバ方面への攻撃は、ヨルダンが望むか否かにかかわらず、同国の防空が米国およびイスラエルを含む地域的な防空体制と連動している実態を可視化した。ファーイズ上院議長は7月19日、ヨルダンに対するイランの攻撃を拒絶し、同国の主権に対するいかなる侵害も容認しないと表明した。しかし、イランのミサイルやドローンから領空と重要施設を防衛するには、ヨルダン単独の能力には限界があり、米軍との連携に加え、状況によってはイスラエルとの間でも防空協力や情報共有が必要となる。ヨルダンは今後も、実務面では米国とイスラエルと連携しつつ、国内の批判や社会不安を避けるための報道が続くとみられる。

【参考】

ヨルダン:イランの攻撃を受け防空・対ドローン協力を強化」『中東トピックス』No.T26-03。※会員限定。

(主任研究員 平 寛多朗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

|


PAGE
TOP