中東かわら版

№59 トルコ:アンカラでNATO首脳会議開催、同盟内での存在感を押し出す

 2026年7月7~8日、アンカラで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開催された。トルコでの開催は、2004年6月のイスタンブル以来、22年ぶりとなった。

 8日に発表された6項目から成る「アンカラ首脳会議宣言」は、ワシントン条約第5条に基づく集団防衛、ロシアの長期的脅威とテロへの対応、防衛投資・調達・生産能力の拡大、欧州同盟国とカナダの防衛責任拡大、ウクライナ支援、イランの核兵器保有阻止、ホルムズ海峡の航行の自由を柱とした。具体的な数値としては、2025年に欧州同盟国とカナダが中核的な国防費(戦力整備に直結する支出)を1390億ドル超増額したこと、同盟国が今回のアンカラ首脳会議で総額500億ドル超の新規調達を公表したこと、さらに2026年にウクライナ向けに軍事装備・支援・訓練として700億ユーロ(約800億ドル)を拠出することが明記された。

 エルドアン大統領は開会会合での演説で、トルコのNATO内での役割と防衛産業の能力を強調した。防衛支出については、2030年より前にGDP比3.5%へ引き上げる措置を講じたと述べ、すでに1.5%に達している安全保障・強靱性関連の支出をこれに合わせることで、ハーグ首脳会議で2035年までの目標とされた5%に、5年前倒しで到達することを目指すと語った。同盟内で不足が指摘される防空・ミサイル防衛についても、既に「鋼鉄のドーム(Çelik Kubbe)」計画に240億ドルの追加予算を割り当てたとして、能力面での貢献を訴えた。

 さらにエルドアン大統領は「NATO 3.0」の実現に向けて、防衛産業を含む防衛協力での同盟国間の制限撤廃及び欧州同盟国による防衛責任の拡大を求めた。とりわけEU加盟国に対しては、NATOとの不要な重複を避け、EU非加盟の同盟国を排除しない協力の形が必要だと強調した。トルコの防衛産業に関しては、防衛産業庁(SSB)が、過去12カ月の防衛・航空宇宙輸出が110億ドルを超え、その約56%がNATO諸国向けだったと発表している。

 一方、対米関係では、トランプ大統領がトルコに対する「敵対国に対する制裁措置法(CAATSA)」の解除やF-35の供与に前向きな姿勢を見せたことが焦点となった。CAATSA制裁は、トルコが2019年にロシア製地対空ミサイルS-400を導入したことを理由に2020年12月に科されたもので、制裁の解除やF-35計画への復帰には、S-400の扱いについての見直しが前提となる。エルドアン大統領は、こうしたトランプ大統領の意向が、国産戦闘機KAANやF-35計画を含む防衛産業分野で具体的な成果につながることへの期待を表明した。これに対し、イスラエルのネタニヤフ首相が、トルコへのF-35供与が中東の軍事バランスを崩すとして反対しただけでなく、スモトリッチ財務相も、供与阻止に向けて、表立った動きと水面下での働きかけの双方を行っていることを明らかにしている。

 会期中、エルドアン大統領は、NATOのルッテ事務総長、トランプ米大統領、カナダのカーニー首相、スターマー英首相、メルツ独首相、メローニ伊首相、マクロン仏大統領、シリアのシャラ大統領、EUのコスタ欧州理事会議長、フォン・デア・ライエン欧州委員長らと相次いで会談した。同機会をとらえ、英国とは安全保障・防衛パートナーシップ協定が署名され、カナダとは自由貿易協定(FTA)交渉が開始された。

 また、今次首脳会議の記念として、エルドアン大統領は各国首脳に、トルコの国有軍需企業MKE(機械化学工業公社)製の刻印リボルバー「ギュミュシャイ(Gümüşay)」.357マグナムを実弾とともに贈った。拳銃の所持・輸入に制約のあるカナダやエストニアなどでは、受け取った銃の扱いが問題となるなど、物議を醸している。

 2日間の会議には、NATO加盟32カ国の首脳に加えて、約100人の首脳・閣僚、高官、国際機関代表、招待者が参加し、2500人を超える報道関係者が取材にあたった。フィダン外相は、全同盟国が首脳級で参加したことについて、トルコとエルドアン大統領への信頼の表れであると強調した。 

評価 

 今次NATO首脳会議は、トルコの同盟内での存在感と防衛産業の能力を前面に押し出す機会となった。エルドアン政権は、アンカラでの首脳会議開催、NATO防衛産業フォーラムの開催、各国首脳との会談、英国との安全保障・防衛パートナーシップ協定の署名、カナダとの自由貿易協定(FTA)交渉開始を通じて、トルコがNATOにとって不可欠な同盟国であることを印象づけた。

 トルコ・米国関係は、第2次トランプ政権の下で、第1次政権期やその後のバイデン政権期に比べれば好転している。トランプ大統領がCAATSA制裁の解除やF-35計画への復帰に前向きな姿勢を見せたことは、その象徴といえるだろう。もっとも、トルコ国内には、これを手放しの成果とはみない声もある。トルコは、パトリオット導入交渉の頓挫と米国の対シリア政策への反発からロシア製S-400を購入したが、その結果としてF-35計画から排除され、支払い済みの機体も受け取れない状態に置かれた。F-35復帰に向けてS-400の扱いを見直そうとしているのであれば、それは単純な外交成果ではなく、過去の判断がもたらした問題の処理という性格も帯びる。

 こうした国内の批判を代表するのが、最大野党・共和人民党(CHP)のバージュオール議員である。同議員は、S-400購入を「戦略的過ち」と断じ、調達後に防衛産業上の禁輸やF-35計画からの排除が生じることは予見できたはずだと指摘したうえで、失われた国家資源や損なわれた威信について、政府に説明責任を求めている

 また、F-35不在の穴を埋めるため、トルコは英国、カタル、オマーンからユーロファイター・タイフーンの調達を進める一方で、F-16部隊の近代化では引き続き米国との交渉を必要としている。エルドアン政権肝いりの国産戦闘機KAANについても、国産エンジンが完成するまでに時間を要するとみられ、それまでは米国製に依存せざるを得ない。これは、トルコの防衛産業が成長を続ける一方で、戦闘機やエンジンといった中核分野では、未だ西側の装備体系から完全には自立していないことを表している。

 シリアに関しては、トランプ大統領がシャラ大統領を祝福し、シリアをテロ支援国家リストから外す方針を示したことで、トルコの対シリア政策は一定の前進をみた。だが、トルコ自身はF-35問題で、依然として米国の制裁と議会の制約に直面している。今次首脳会議は、トルコの外交上の成果を演出する場であったと同時に、S-400購入以降に積み残された対米防衛協力上の課題を浮かび上がらせる場にもなった。

 最後に、首脳への「お土産」も見逃せない。エルドアン大統領が各国首脳に実弾付きの刻印リボルバーを贈ったことには、記念品を超えた政治的な狙いがうかがえる。一国への攻撃を全体への攻撃とみなすワシントン条約第5条の集団防衛の理念を、武器という形で突きつけるかのような贈り物だからである。実弾を添える演出には、有事に実際に戦う覚悟を同盟国に問う響きがある。背景には、2016年7月15日のクーデタ未遂に際し、NATO加盟国のいずれもがこれを「加盟国が受けた攻撃」として受け止めず、トルコに十分な連帯や同情を示さなかったことへの、エルドアン大統領の根深い不満があるとみられる。今回のサミットは、そのクーデタ未遂からちょうど10年にあたる7月15日の直前に開かれており、この「贈り物」にはそうした記憶を重ねる意図も読み取れる。刻印リボルバーは、トルコが防衛産業を国の看板として押し出す姿勢の象徴であると同時に、同盟の結束と覚悟をトルコの側から問い直す、痛烈なメッセージとも受け取れる。

【参考】

「トルコ:米国によるトルコへの制裁発動」『中東かわら版』2020年度No.116。

「トルコ:ユーロファイター購入に向け英国とMoUを締結」『中東トピックス』No.T25-04。※会員限定。

「トルコ:英国とユーロファイター関連協定に署名」『中東トピックス』No.T25-12。※会員限定。 

(上席研究員 金子 真夕)

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