№54 モロッコ:国内で強化される「イスラーム国」の取り締まり
2026年7月6日、モロッコの中央司法捜査局(BCIJ)は、「イスラーム国」の支援を受けて活動していた過激派10名を逮捕したと発表した。BCIJによれば、逮捕作戦はアガディール、タルーダント、カサブランカ、ハジェブ、テトゥアン、フキーフ・ベン・サーリフ、サフィ、ベルカーンなど、モロッコ国内の複数都市で実施された。容疑者らは「イスラーム国」の「カリフ」に忠誠を誓っており、サヘル地域で活動する同組織の指導部から、国外の拠点に合流するのではなく、モロッコ国内にとどまって破壊活動を行うよう指示されていたという。
これに先立つ6月25日にも、「イスラーム国」の指導者に忠誠を誓っていた人物が逮捕されていた。同容疑者は、サヘル地域で同組織に合流しようとしたものの失敗し、その後、モロッコ国内で「ローンウルフ」型のテロを計画していたとされる。

(グーグルマップを元に筆者作成。赤い線と青い線はモロッコからマリに向かう陸路輸送ルートの一例を示したもの)。
評価
今般逮捕された容疑者らが合流を試みていた「サヘル地域で活動する「イスラーム国」」とは、「イスラーム国サヘル州」を指すとみられる。モロッコ国内で、「イスラーム国」、あるいは同サヘル州と関係を持つとされる過激派が摘発されることは新しい現象ではない。2020年代に入って以降、モロッコでは、「イスラーム国」に忠誠を誓った、または同組織に影響を受けたとされる人物の摘発が断続的に報じられている。今般、「イスラーム国」に忠誠を誓ったとされる過激派10名が逮捕されたが、2025年2月にも、「イスラーム国サヘル州」とつながりを持つとされる12名が逮捕されていた。また、2025年のBCIJの発表によれば、モロッコ当局による取り締まりにもかかわらず、130人以上のモロッコ人戦闘員が、サヘル、西アフリカ、ソマリアで活動する「イスラーム国」に合流しているという。
また、2016年には、「イスラーム国」が、モロッコ国内の標的への攻撃を呼びかけていた。加えて、モロッコはかつて「イスラーム・マグリブ諸国のアルカーイダ」(AQIM)からも標的とされてきた。こうした経緯を踏まえれば、モロッコは外部の過激派組織による脅威にさらされてきただけでなく、「イスラーム国」に合流する戦闘員の出身地の一つであり、国内の支持者を通じて外部組織の影響が及び得る場でもあるといえる。実際、BCIJは2015年に設立されて以来、数十の武装組織を解体し、1000人以上のジハード主義者を逮捕している。
今般の逮捕が従来の事案と異なる点は、容疑者らが国外の組織に合流するのではなく、モロッコ国内にとどまって活動するよう指示されていたと報じられたことである。「イスラーム国サヘル州」がモロッコを標的の一つとしてきたことは、これまでもたびたび指摘されてきた。しかし、今般の事案では、国外拠点への合流ではなく、国内での活動を命じられていた点が明確に報じられており、この点は注目に値する。6月25日に逮捕された人物が、「イスラーム国サヘル州」への合流に失敗したことも考慮すると、モロッコおよび周辺国による取り締まりの強化により、国境を越えてサヘル地域の組織に合流することが以前ほど容易ではなくなっている可能性が示唆される。そのため、「イスラーム国サヘル州」は、国外から戦闘員を受け入れるだけでなく、モロッコ国内に残る支持者を通じた組織形成と活動を、より重視する方向に動いている可能性がある。
一方、モロッコは近年、サヘル地域諸国との関係強化を模索している。2023年11月には、ムハンマド6世国王が演説の中で「大西洋にサヘル諸国がアクセスできる国際的な取り組み」を提案している。2025年4月には、マリ、ブルキナファソ、ニジェールからなるサヘル諸国同盟(AES)が同構想への支持を表明し、AES加盟国の外相らがモロッコを訪問した。同構想について、米国のカーネギー国際平和基金は、モロッコがサヘル地域における主導権を確保することを目的としていると分析している。モロッコにとってサヘル地域は、外交・経済・物流面で影響力を拡大する対象となっている一方、同地域で活動する「イスラーム国サヘル州」の影響が国内に及ぶ経路にもなり得る。そのため、モロッコがサヘル地域との関係強化を進める中で、同地域の過激派組織とつながる人物への監視を強化する必要性も高まっているとみられる。
モロッコは2030年に開催されるFIFAワールドカップの開催国の一つとなっている。「イスラーム国」は、米国等で開催された2026年のワールドカップに合わせ、同大会でテロを行うことを呼びかける記事を雑誌に掲載した。モロッコは米国とは異なり、「イスラーム国」に忠誠を誓う人物たちの活動の拠点となり得る場所である。2030年のワールドカップを見据え、今後、モロッコ当局は、「イスラーム国」との具体的な組織関係の有無に加え、同組織との思想的共鳴や忠誠表明を示す人物・集団に対して、早期摘発を強化していくとみられる。
(主任研究員 平 寛多朗)
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