№52 ペルシャ湾岸諸国:各国の石油・天然ガスの生産と輸出の現状と見通し
アメリカとイランとの覚書締結後、ホルムズ海峡の航行が回復し、それに伴いペルシャ湾岸諸国の石油や天然ガスの生産・輸出も回復されることが期待されている。これについて、2026年7月1日付『ナハール』(キリスト教徒資本のレバノン紙)は「停戦後のホルムズ…地理的には開かれているが、政治的には制限されている」と題し、沿岸諸国の石油・天然ガスの生産と輸出の現状と今後の見通しにつき専門家らの分析として要旨以下の通り報じた。
機雷:機雷の問題は、(アメリカとイラン間の交渉が合意に至っても)ホルムズ海峡の航行が完全に回復する上で物理的障害であり続けている。国際機関は、ホルムズ海峡の伝統的な航路上に80発の機雷があると推定している。機雷の除去は、フランスとイギリスが主導し、ドイツ、イタリア、日本、カナダが参加して受け持つ。アメリカが、無人機による探査などでこれを支援する。アメリカの国防省は、掃海が完了するには半年かかると見積もっている。
サウジ:サウジは、ホルムズ海峡が封鎖されている期間中同国の東西を結ぶパイプラインに依拠した。パイプラインは、ペルシャ湾岸のアブカイクと紅海沿岸のヤンブウ港を結んでいる。ヤンブウ港からの石油の輸出量は、3月には日量400万バーレルに達した。パイプラインがフル稼働した場合の能力は日量700万バーレルを輸送できるが、ヤンブウ港からの輸出量は日量500万バーレルに拡大可能である。6月のヤンブウ港からの燃料輸出量は、過去5カ月で最高に達した。アラムコ社は、6月26日にペルシャ湾岸のラアス・タヌーラからの石油積み込みを再開した。
UAE:アブダビ原油パイプライン(ADCOP)を使用して、ホルムズ海峡封鎖に対応した。同パイプラインの輸送能力は日量150万~180万バーレルで、ホルムズ海峡の外側のフジャイラ港へと原油を輸送する。これにより、UAEの石油輸出量は拡大し、3月の時点で日量190万バーレルだったものが6月には日量430万バーレルに増加した。この輸出量は、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃以前の水準の85%にあたる。UAEは、2026年5月にOPECから脱退している。アブダビ石油会社は、東西のパイプラインの増強を急いでおり、2027年にはフジャイラ港からの石油輸出量を日量500万バーレルに増強することを目指している。この事業の投資規模は1500億ドルを超えるが、現時点の進捗率は50%である。
クウェイト:ホルムズ海峡危機は、クウェイトの(石油)輸出基盤の例外的な脆弱性を明らかにした。2026年4月の輸出量は、イラクの侵攻・占領を受けた1991年以来初めてゼロとなった。クウェイト石油社は4月に不可抗力を宣言し、日量120万バーレルを現地で貯蔵した。同社はサウジ、UAEとホルムズ海峡を迂回するパイプライン網との連結を交渉しているほか、オマーンに石油を備蓄することを検討している。ただし、どのような事業でも実施に少なくとも3年は必要とみられている。
カタル:根幹にかかわる損害を受け、複数の段階を経て復旧する。世界最大の天然ガス液化施設を擁するラアス・ラファーンが、3月に甚大な被害を受けて完全に停止した。最も望ましい状況推移を遂げたとしても、8月末までは生産力は完全には回復しない。カタル・エナジー社は、ホルムズ海峡の通行が再開すれば1カ月で生産能力が50%、2カ月で80%に回復すると通知しており、ガスの輸送船がラアス・ラファーン沖に待機している。
イラク:GDPの5割以上を石油に依拠しており、3月には石油収入の76%を喪失した。イラク政府は、トルコのジェイハン港を経由したキルクーク油田からの日量7500バーレルの輸出を再開した。この経路の最大輸送能力は日量77万バーレルである。また、石油省は、イラク南部のバスラ油田とイラク中部のハディーサを結ぶ輸送力日量225万バーレルのパイプライン建設事業の入札を公示した。
なお、専門家らは、ペルシャ湾岸諸国からの資源の供給の問題は各国の生産力ではなく、イランがホルムズ海峡は現在も同国の制圧下にあると明言する中、(地域の安定についての)政治的な見通しの信頼度にかかっているとの点で一致している。また、サウジやUAEによるホルムズ海峡を経由しないパイプラインや、オマーン、トルコを通じた代替経路の開拓は、ホルムズ海峡の航行状況を問わず今後も継続・拡大する見通しである。
評価
上記の記事では、ホルムズ海峡の機雷除去に本邦の参加を見込むなど、不確定事項を多数含む現状描写や見通しが述べられている。このため、生産や輸出が記事中の見通しのように回復するか楽観はできない。今般の紛争では、イラク、クウェイト、カタルのような代替経路に乏しい諸国の石油・天然ガスの生産・輸出に大きな影響が出た模様で、代替経路を確保できたサウジやUAEとの差が際立った形となっている。全当事国は、今後ホルムズ海峡の状況を問わず輸送経路の多角化に努めることになるだろう。しかし、紛争の際には、クウェイト、バハレーン、カタルがイランからの激しい攻撃を受けた他、記事中で代替経路として挙がったサウジ横断パイプラインとヤンブウ港、UAEのフジャイラ港も攻撃を受けている。また、ホルムズ海峡経由の天然資源輸送を制することで影響力の拡大を図る当事者は、代替経路についてもこれを攻撃したり、輸送を阻止したりする技術の開発、戦力の配置、政治的影響力の扶植に努めることだろう。大局的には、今後の見通しが地域の政治・軍事的安定や、そのための諸当事者間の合意の信頼性に左右されることに大きな変化はない。
(特任研究員 髙岡 豊)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/







.png)
