№51 イラン:専門家会議の一部議員らが米国との和平協議に否定的な声明を発表
- NEW2026イラン湾岸・アラビア半島地域イスラエルレバノン
- 公開日:2026/07/01
2026年6月26日から28日にかけて生じたイラン・米国間の緊張の高まりを受け、イラン国内では米国・イスラエルに対する主戦論が勢いを得ている。
6月27日、専門家会議(最高指導者を選出する権限を有した、88名のイスラーム法学者からなる議会)の議員68名は、モジタバー・ハーメネイー最高指導者の設定した「レッド・ライン」を守ることはイスラーム聖法上の義務であり、それらを犯すことは決して許されないとした上で、米国・イスラエルによる「強いられた戦争」の犯人たち、特にトランプ米大統領とネタニヤフ・イスラエル首相は、「その血が流されたとしてもキサース(同害報復)の対象とはならない」(殺害しても罪には問われない)犯罪者であって、「殉教したイマーム(アリー・ハーメネイー前最高指導者)の血の復讐」が見過ごされるようなことがあってはならず、彼らに接触可能なイスラーム教徒の成人には、彼らを「地獄に落とす」義務があるとする声明を発表した。
この声明はさらに、「最高指導者と人民」に義務を負う国の責任者たちは、米国による合意違反に対して即座に反応することが期待されるとした上で、レバノンにおけるイスラエルの侵略と駐留という合意違反を前に、ホルムズ海峡を開放することは「責任者たちの約束に反する」と指摘した。ここで言う「責任者たちの約束」とは、6月18日付のモジタバー師によるものとされるメッセージで、ペゼシュキヤーン大統領をはじめとする国家安全保障最高評議会(SNSC)のメンバーが「イラン国民と抵抗戦線の権利の保護」を同師に「約束」したとされていることを指している。
この声明はその上で、自国の核の権利は交渉の対象外であり、ホルムズ海峡の管理、賠償金の徴収、資産の凍結解除、制裁の解除及び地域からの米国の退出は「最高指導者と人民にとって犯すことのできない要求」であるとし、国民に対し「この神的召命に制限を加えようとする一部の蒙昧なる者たちによる、(国を)分断するかのごとき発言には関心を向けぬよう」呼びかけている。
この声明を支持する署名活動も6月28日から開始され、30日までに2万5千以上の署名が集まったという。
なお、同28日には「国家神学校管理センター」も、イランが米国との間で結んだ覚書は最高指導者と人民の全要求を満たすものではないとした上で、「(神の)召命を受けたイランの偉大なる革命的全人民」に対し、覚書の全項目が実現されるよう、「(交渉)責任者たちの言動を監視する」ことが必要だと訴える声明を発表している。
評価
6月27日に発表された68名の専門家会議議員による声明に対し、同会議の事務局は翌28日、同会議が採択したものでも同会議の議長、議長団ないし事務局の署名入りのものでもない非公式の声明だとして、遺憾の意を表明した。
27日の一部専門家会議議員の声明には、同会議の議長団7名中3名が署名しており、なかでも同会議の第二副議長であるアリーレザー・アッラーフィー師が含まれている。同師は、アリー・ハーメネイー前最高指導者の死亡後に設立された3名からなる「暫定指導部」の1人であり、アリー師の有力後継者の一人とみなされていた人物である。この声明の署名欄には、同会議の議長であるモヴァッヘディー・ケルマーニー師、第一副議長で事務局長のホセイニー・ブーシェフリー師が含まれていない。事務局声明によると、署名から外された議員らの中には、27日の声明の内容そのものに異議はないものの、声明を出すやり方に反発している者、さらにはそもそも声明のための署名集めが行われていること自体知らされていなかった者もいたという。
27日の一部専門家会議議員による声明とその後に出された事務局声明からは、イランと米国の覚書と和平協議に対して、国内、なかでもイスラーム法学者の間で亀裂が生じていることが分かる。27日の声明はアッラーフィー専門家会議第二副議長が主導したものと見られ、主戦論を唱える一部軍関係者の歓心を買い、モヴァッヘディー・ケルマーニー議長やホセイニー・ブーシェフリー第二副議長との違いをアピールする狙いがあったものと考えられる。
こうした動きに対し、ペゼシュキヤーン大統領は6月28日にイランにおけるシーア派法学の中心地ゴムを訪れ、同地在住のマルジャエ・タクリード(シーア派法学の最高権威)たちと相次いで会談した。報道によると、ペゼシュキヤーン大統領はショベイリー・ザンジャーニー師、ソブハーニー師、マカーレム・シーラージー師、ヌーリー・ハメダーニー師、キャリーミー・ジャフロミー師らと会談し、そのいずれでも「交渉団を弱体化させたり、侮辱したりするようなことがあってはならない」、「政府の第一の優先課題は国民の経済問題の解決」といった言葉を得たという。米国との和平交渉を進めて、前年同月比で80%以上のインフレ率(食料品は約130%)に直面している経済的困難に速やかに取り組みたい政権にとっては、願ってもない言葉であろう。
他方、交渉団長を務めるガーリーバーフ国会議長は、6月30日に放映されたイラン国営放送でのインタビューで、「戦うべきときは戦う。話し合いによって合意の追求が可能なときは、(話し合いを)追求する」とした上で、「通航量が増えれば増えるほど、(ホルムズ)海峡の価値は上がる」と指摘し、ホルムズ海峡の封鎖を主張する強硬派を批判した。なお、このテレビ・インタビューは事前に録画されたもので、イラン国営放送の放映が途中で突如終了したことに対し、国会メディア局が抗議声明を出す事態となっている(イラン国営放送は、後日第二部を放映すると釈明)。イラン国営放送筆頭副総裁のバヒード氏は、強硬保守派のリーダー的存在で、SNSCの会議で唯一米国との覚書の締結に反対した人物とされるサイード・ジャリーリー氏の弟である。
モジタバー・ハーメネイー最高指導者の妻(2月28日のイスラエルの爆撃で死亡)の父親で元国会議長のハッダードアーデル氏も、6月18日付のモジタバー師の(ものとされる)メッセージを引用して米国との交渉を非難する向きが国内にあることを批判している。同氏は、2月28日の爆撃以来、娘婿のモジタバー師には会っていないとしつつ、同師は国内の団結を呼びかけているのであり、米国との対面での交渉を否定していないとし、6月18日付の「原則的に、私は別の意見を有していた」とのモジタバー師の文言を取り出して、同師が交渉に否定的だったと判断するのは「誤った解釈」だと批判した。
このような国内の対立を考えれば、モジタバー最高指導者の「真意」と米国との交渉の是非をめぐって、イラン国内では今後も熾烈な闘争が展開されるものと思われる。
【参考】
「イラン:米国との和平協議が開始」『中東かわら版』No.47。
(研究主幹 斎藤 正道)
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