№48 エジプト・トルコ:米国・イラン協議の陰で競う仲介外交の成果
2026年6月18日、米国とイランは戦闘終結を目的とした覚書、「イスラマバード覚書」に署名した。21日には、スイスで覚書に沿った本格的な協議が米国とイランの代表団によって開始された。協議には仲介国のパキスタンとカタルも参加した。他方、イランをめぐる問題に関しては、トルコ、エジプト、パキスタン、サウジアラビアの4カ国が協議を重ね、外交的解決を目指してきた。そのような中、今般のイスラマバード覚書をめぐり、エジプトとトルコで仲介外交の成果に関して報道に違いが見られた。
エジプト・メディアは、自国の外交的成果を強調する傾向にある。例えば、15日付の政府系新聞『Ahram』は、米国・イラン合意の成立に向けたエジプトの外交努力について、パキスタンおよびカナダの両外相から称賛を受けたと報じている。また、同日付の同紙は、イランのアラーグチー外相がエジプトの外交努力を評価し、合意の維持に向けたエジプト政府の役割に期待を示したと伝えている。19日付の同紙では、アラーグチー外相が、数カ月間にわたるエジプトの水面下での役割に謝意を示し、エジプトによる働きかけは、交渉過程における意見の隔たりを縮め、障害を取り除き、事態打開の助けになったと述べたと伝えた。さらに22日付では、米国のウィトコフ中東特使が、「イスラマバード覚書」をめぐるエジプトの役割に謝意を示したと報じた。
一方、トルコ・メディアはエジプトとの協調を伝える傾向にある。国営メディア『アナトリア通信』は、6月21日にカイロで開催されたトルコ、エジプト、パキスタン、サウジアラビアの4カ国外相協議に関して、フィダン外相が、非常に有意義な意見交換が行われ、共通認識を形成する機会になったと評価したと肯定的に伝えた。また同通信は、フィダン外相が、エジプトのシーシー大統領を表敬訪問し、4カ国協議の枠組みがもたらした前向きな成果について、シーシー大統領から直接話を聞く機会を得たと述べたと伝えた。さらにこの報道では、エルドアン大統領からの挨拶とメッセージが同大統領に伝達されたと報じ、エジプトとの協調路線が強調された。
トルコ・メディアが報じる4カ国外相協議に関しては、エジプト側でも報じられているが、シーシー大統領の指導力が示唆される形で伝えられている。総じて、イスラマバード覚書をめぐり、主要な仲介者ではないエジプトの「仲介」的役割が強調される形となっている。
評価
エジプトが「仲介」を強調する背景には、イラン情勢をめぐる複雑さがある。2026年2月末から始まった軍事衝突の主体は、米国・イスラエルとイランであったが、一方でイスラエルは対イラン戦の枠組みの中で、イランの支援を受けるレバノンのヒズブッラーとも戦闘を行っていた。また、ガザ地区には同じくイランの支援を受けるハマースが存在しており、仮にレバノン戦線やガザ戦線が「イラン戦争」と連動すれば、戦争はさらに制御困難なものとなる可能性があった。具体的な「仲介」の内容は明らかではないものの、ガザ停戦における仲介国であり、レバノン情勢にもある程度関与するエジプトは、トルコとともに、米国・イラン間の合意形成に向け、レバノンやガザを含む地域的な利害調整に関与していたとみられる。
エジプトとトルコはいずれも対米関係を重視しており、またイランとも敵対関係にはない。一方で、両国とイスラエルの関係は単純ではない。エジプトはイスラエルとの公式関係を維持しているものの、シーシー大統領とネタニヤフ首相の関係が良好とは言いがたい。また、イスラエル側はトルコを強く警戒・批判しており、ネタニヤフ首相はエルドアン大統領への批判を繰り返している。そのため、エジプトとトルコは、米国・イラン協議の周辺で水面下の利害調整に関与した一方、仲介過程そのものはパキスタンを中心に、カタルも加わる形で進められたとみられる。その結果、両国の外交努力には必ずしも十分な焦点が当たらず、エジプトは合意成立後、メディアを通じて自国の役割を可視化する必要があった可能性がある。
エジプトが外交的成果を積極的に強調する背景には、自国を「地域大国」と位置づける意識に加え、諸外国および国際機関からの支援・融資を確保する狙いがあるとみられる。エジプトは、スエズ運河、紅海、東地中海、ガザ、リビア、スーダンといった欧米にとって重要な通商・移民・安全保障上の結節点に位置している。そのため、エジプト政府は周辺地域の安定化に関与することで、地域秩序の維持に不可欠なパートナーとしての自国の価値を示し、EUや米国から経済・軍事・外交面での支援を受けるうえでの外交的価値を高めてきた。
他方、トルコにとってもエジプト、サウジアラビア、パキスタンとともに、地域の主要国として危機管理と秩序形成に関与していくことは重要な意味を持つ。フィダン外相は、イラン戦争後の域内秩序について、域外からの一方的な構想を拒否する姿勢を示している。これは、米国やイスラエルが主導する秩序構想とは異なる形で、地域諸国による危機管理と秩序形成をトルコが模索していることを示唆している。
さらにトルコは、米国・イラン協議を二国間の問題としてではなく、ガザ、レバノン、シリア、リビアを含む地域全体の秩序再編と結びついた問題として見ている。フィダン外相は、イスラエルが地域の安定化を妨害している可能性について言及しており、このことはトルコがイスラエルを地域の緊張緩和を阻害する要因とみなしていることを示している。トルコにとって、米国・イラン間の合意が維持されれば、ガザやレバノンを含む戦線の拡大を抑えるだけでなく、シリアやリビアなど自国が直接関与する問題についても、関係国との協議を進めやすくなる。今般のカイロ訪問では、4カ国協議の枠組みに加えて、リビアをめぐるトルコ、サウジアラビア、エジプト、米国の協議も行われており、トルコは複数の地域問題を結びつけながら、自国の外交的役割を高めようとしている。
現在、エジプトとトルコは、それぞれの思惑の下で連携し、二国間関係を強化している。2026年6月中旬には、両国が合同航空訓練を実施しており、安全保障面での協力も進んでいる。しかし、今般のイスラマバード覚書をめぐっては報道に違いも見られた。エジプトが米国・イラン協議の陰で自国が果たした外交的役割を強調する一方で、トルコ側の国営メディアではトルコの主導的な役割をことさら強調するような言説は目立っていない。これはトルコが、米国・イラン協議をより広い地域秩序形成の一部として位置づけており、今後も他国と連携した秩序形成を重視していることの表れとも言える。いずれにせよ今後、東地中海やレバント情勢をめぐって両国の利益が対立した場合、エジプトとトルコの協調的な仲介は制約を受ける可能性がある。エジプト・トルコ関係は強化される方向に向かっているものの、地域秩序をめぐる仲介外交では、協調と競合が並存する流動的な関係にある。
(上席研究員 金子 真夕)
(主任研究員 平 寛多朗)
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