中東かわら版

№47 イラン:米国との和平協議が開始

 イラン時間2026年6月21日17時、最終和平合意に向けたイランと米国の協議が、パキスタン及びカタルの仲介で、スイスで始まった。米国側はバンス副大統領が、イラン側はガーリーバーフ国会議長が交渉団長を務めた。

 交渉の開始の直前、バンス副大統領は米国とイランの関係をリセットする「歴史的な協議」となると述べたが、この発言の直後、トランプ米大統領が自身のSNSである「トゥルース・ソーシャル」で、もしイランがレバノン・ヒズブッラーの行動を即座に抑制しなければ、先週行ったよりも「さらに強く」イランを攻撃すると脅迫した。これに対し、イラン側団長のガーリーバーフ国会議長は「X」で、「米国の脅しなどなんとも思っていない。自身の発言に気をつけるべき」と応酬した。革命防衛隊に近い「ファールス」通信は、イラン交渉団が抗議のために協議会場を後にしたと報じ、イラン国営放送(IRIB)は交渉団が協議継続の是非を検討するために協議を中断したと伝えるなど、協議の行方には暗雲が垂れ込めていた。

 しかし、こうした否定的な雰囲気にもかかわらず、イラン国営通信(IRNA)によると、両者の間で18時間にも及ぶ協議が行われ、イランのアラーグチー外相は「X」で、●イラン産原油及び石油化学製品の輸出に対する制裁の適用除外、●米国による海上封鎖の解除、●一部の資産の凍結解除、●大規模復興・開発計画の始動を発表するなど、米国との協議が進展したことを明らかにした。米財務省も、イラン産原油・石油化学製品に対する制裁を8月21日まで停止すると発表している。また、バガーイー外務報道官も、レバノンでの戦闘停止を保証するためのメカニズムを、カタル及びパキスタンの参加によって立ち上げることが決まったと述べており、米国との協議が順調に進んでいるように思われる。

 米国のバンス副大統領も協議後の記者会見で、イランとの協議では大きな進展があったことを認め、ホルムズ海峡は開放された状態にあるとした上で、イランが国際原子力機関(IAEA)の査察官の復帰に同意したと明かした。ただし、バガーイー外務報道官は、2025年6月下旬にイランで成立した「IAEAとの協力停止法」に則ったIAEAとの協力を続けると述べ、IRNAも協議で核問題は扱われず、イランは新たなコミットメント(約束)を受け入れなかったと報じている。「IAEAとの協力停止法」によると、IAEAとの協力は国家安全保障最高評議会(SNSC)の承認が必要となる。

 イラン資産の凍結解除について、バンス副大統領はこの資金がテロではなく、イラン国民への支援に使われることを確信できるようなメカニズムが必要だとし、米国産の大豆、トウモコロシ、小麦の購入にのみ使われる形で資産の凍結を解除するとの提案がトランプ米大統領の娘婿クシュナー氏からあったことを明かした。これに関し、トランプ米大統領は資産の凍結解除が一部実施され、米国産農産物の購入に充てられると発表している。

 イランと米国の実務者レベルでの協議はスイスで継続されており、バガーイー外務報道官によると、ガリーブアーバーディー法律・国際問題担当外務次官がイラン側の責任者を務めているという。

 また、イラン側の交渉責任者であるガーリーバーフ国会議長及びアラーグチー外相は、ホルムズ海峡の管理について話し合うためオマーンを訪問し、23日にも同国のハイサム国王と会談する予定となっている。また、ペゼシュキヤーン大統領も23日にパキスタンを訪問し、今回の協議の仲介の労を取ってくれたことについて、同国に謝意を述べる予定であると報じられており、イラン政権側の外交活動が活発化している。

評価 

 米国との交渉に入る際、ガーリーバーフ国会議長は協議開始前の記念撮影を拒否した。また、イラン交渉団はメディア関係者による写真撮影が終わった後に協議会場に現れるなど、米国側と直接交渉を行う様子がメディアのカメラに収められるのを極力避けた。

 その背景には、イラン国内の最強硬派の政治集団「革命永続戦線」の関係者が米国との和平協議に強硬に反対していることが挙げられる。

 6月18日、米国との和平協議開始を前に、モジタバー・ハーメネイー最高指導者のものとされるメッセージが発表された。その中で同師は、「私は原則的に、別の意見を有していた」が、「SNSC議長としての(ペゼシュキヤーン)大統領ならびにその他のSNSCのメンバーたち」が「イラン国民及び抵抗戦線の権利を守る」ことを約束し、その責任を受け入れることを明言したことから、イランと米国が交わした覚書を承認したと述べた。

 このメッセージを受け、国会安保外交委員会副委員長で「革命永続戦線」に属するナバビヤーン国会議員はIRIBの生放送で、モジタバー師は米国との対話に入ることに完全には賛同していないと暴露し、IRIBがこの放送を途中で中断するというハプニングがあった。その後、「機密情報」を不完全な形で暴露したとして、IRIBはナバビヤーン師を訴追し、番組の責任者は辞任に追い込まれた。

 このエピソードは、強硬保守派の間で米国との協議に反対する声が根強く残っていることを示している。一部の情報によると、米国との覚書への賛否を決めるSNSCの会議で反対票を投じた人物が1名だけおり、それがSNSC最高指導者名代で「革命永続戦線」の指導者とされるサイード・ジャリーリー氏だったという。ジャリーリー氏は、2024年6月の大統領選挙に立候補し、ペゼシュキヤーン氏に敗れた人物である。なお、ジャリーリー氏の弟バヒードは、IRIBの筆頭副総裁を務めている。

 米国との和平協議をめぐるこうしたイラン国内の対立について、ペゼシュキヤーン大統領は6月21日、金融政策に関する会合で再度、故アリー・ハーメネイー前最高指導者が「戦争でも平和でもない」状態から脱する必要があることを訴えていたことを指摘し、イラン経済を好転させる必要性を強調した上で、米国との交渉に不満を抱いているグループとして、イスラエル、反体制派の王党主義者、そして「(イラン国内に)平穏をもたらすことに関心を持たない人、あるいはグループ」の3つを挙げ、最後のグループはイスラエルのネタニヤフ首相と同じ道を歩んでいると非難した。同大統領は名指ししていないが、「(イラン国内に)平穏をもたらすことに関心を持たないグループ」が「革命永続戦線」であることは明らかであろう。

 こうした国内における対米協議をめぐる対立を考えると、イラン交渉団が米国関係者と一つの写真に収まることは、無用の反発を煽ることになりかねない。2015年1月に、核交渉を行っていたイランのザリーフ外相(当時)とケリー米国務長官(当時)がジュネーブの街中を散歩した写真が大々的に報じられ、強硬保守派の反発を招いたことがあったが、このような反発が米国との戦争を経た今起きれば、米国との和平協議が頓挫する危険性がある。イランの交渉団が米国との記念撮影はおろか、米国関係者(の一部)と一つの写真の中に収まることすら避けたのも、協議を慎重に進めたいというイラン政権側の狙いによるものであろう。

【参考】

イラン:米軍との間で2日連続の軍事衝突」『中東かわら版』No.38。

イラン:米国との戦争終結で合意」『中東かわら版』No.40。

(研究主幹 斎藤 正道)

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